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(留三郎視点)





最大の好敵手に、抑えきれない思慕を押し付けて数週間が経った。あの夜以降も、俺は文次郎と幾度か身体を重ねている。


表面上の関係は全く変わっていない。相手の言動が気に食わなければ、どちらからでも喧嘩を吹っ掛けたし、特段思いやりが増えたりだとか…そんな甘ったるいやりとりは断じてない。ただ不意に視線が合うとき、自分たちの距離が単に犬猿の仲に留まらないことを自覚するようになった。

そして睦事の最中でだけ、互いに特別な感情を貪るように、打って変わって優しく、ひたむきに身体を求めあった。文次郎が自分に向けて直接的に好意を口にすることはない。けれど反応を見る限りでは、多少の自惚れや期待はあるかもしれないが、留三郎が文次郎へ抱く感情と寸分違わぬ種の恋慕を、彼から与えられているように感じることができた。





「留三郎!」

呼ばれて振り返れば、機嫌のよい文次郎が走り寄ってくる。これまでは名字で呼ばれることも多かったのだが、必ず名前で呼ばれるようになったことも些細な変化かもしれない。


「どうした?」

「明日は何か用事はあるか?」

「明日?明日は用具の仕事がないわけでもないが…忙しいわけでもねぇな」

「学園長からちょっとした任務を承ってな。一緒に組まないか?」

「それでそんなに嬉しそうなのかよ…おまえって本当に物好きだよな」

文次郎の忍者馬鹿は今に始まったことではない。日頃の癖で、そういうのは面倒を押し付けられたと言うのだと、挑発的な言葉で返したくなるところをぐっと押し留める。


ここで意地悪く「何で俺をご指名なんだよ?」と尋ねれば、以前自分がそうであったように、素面で本音が聞けるのだろうかと考えないこともない。だが、そこまで色恋惚けしているわけでもなかった。

「構わないが、俺たちが一緒だと任務は雨だぞ」

「どんな状況でも仕事をこなすのが忍者だろう」

「はいはい、相変わらずだな。なら逆に聞くが、おまえ、今夜は何か用事はあるか?」

「今夜…?今は委員会も落ち着いているし、特には…」

そこまで言いかけて、やっとこちらの意図を理解したらしい。文次郎が鈍いのは、単純に三禁云々が原因ではないようだ。その初心な反応についほくそ笑めば、文次郎に鋭い蹴りを喰らった。その相手はせずに、いつもの通りでいいか?と約束を取り付ける。

「…明日は任務だぞ」

「どうせ学園長の急な依頼なんて、たいした内容じゃないだろ?」

「…いつも通りに」

文次郎は心底不服そうに口を尖らせ呟くと、逃げるように踵を返した。


そう言えば、何ごとであれ文次郎から誘われたのは初めてだと、その後ろ姿を見送りながら留三郎はひとり微笑んだ。







***






「…はぁっ」

「ん……ぁっ」

がつがつ腰を打ちつけると、文次郎が握りしめている布団にぎゅっと皺が寄る。男同士の正常位は些か苦しい体勢ではあるが、顔を見ながら行為に及べるので、留三郎は彼を押し倒すことを好んだ。


脚を抱えて込んでいた腕を離し、代わりに男の手と重ねれば、自然に各々の指先が絡まり合う。喧嘩の最中にも同じように手を繋ぐこともあるのに、僅かに仕草を丁寧にしただけで、如何にここまで趣が変わるのだろうか。

自分の眼下で、文次郎が背を仰け反り身を善がらす姿は、いつ見ても煽情的だった。鍛えられ硬く締まった腹筋が、彼を貫く己の抽送に合わせて可愛らしくぴくぴくと震える。左右でがばりと持ちあがっている脚は、ときどき痙攣を起したように爪先を丸め、快感で引き攣っていた。


「ぁっ……」

片手を離し、文次郎自身を扱いてやれば、組み敷いている裸体がまた大きく跳ねた。気丈な文次郎が快楽に流されて薄らと涙を目元に溜める表情に、ぐっと射精感が込み上げてくる。

日常では些か老けて見える彼が、情事の際には放つ色香は男らしく厭に艶めかしい。思わず洩れかけた台詞は呑みこみ、代わりに文次郎の中心へと昂った自身を更に押し進める。疾うに覚えた前立腺のあたりを擦りあげれば、手の中の男の一物からだらしなく我慢汁が零れた。


「とめ…留三郎っ」

そして余裕がなくなってくると、文次郎は噛み殺した嬌声に混じえて自分の名前を呼ぶ。この熱を孕んだ声で名前を呼ばれると、何故か心が満たされた感覚を覚えるのだ。





裏山の奥にひっそりと存在している小屋が、二人の逢引場所と定着していた。留三郎が見つけたその家屋は、広い裏山で教師にも見つかっていない隠れ家である。


隣で心地よさそうに寝息を立てている文次郎は、無意識なのか留三郎を女子のように抱き締めてくる。どうして俺が腕枕されなきゃならんのだと、いつもの対抗心で抱き締め返せば、甘えたように首筋に擦り寄られた。こつんと額を合わせれば、二人の吐息が絡まるように互いを擽る。次第に留三郎も、情事のあとの心地良い疲れの中に意識が手放した。



――もう容易に好意を言葉に出来ぬほどに、留三郎はこの温もりを信じ切っていた。







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