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(留三郎視点)



文次郎を避けるようになって、数週間。

一度彼からの任務の誘いを断った後は、これまで同様に委員会関係以外で文次郎から話しかけられることはなく、こちらから避ける必要も早々になくなっていた。翌日仙蔵から聞いたところによると、あの任務は長次と共に出掛けたらしい。自分が特別扱いされているような感覚も、所詮話す機会が増えた故に選ばれやすかっただけなのだろう。


暫く経たぬうちに、二人の間柄は元の犬猿の仲に戻っていた。唐突にあの特殊な関係がなくなったことについて、文次郎から何の文句も言及もない。そして自ら距離を置いた留三郎は、それを追求することもできない。ここまできて、全ては色の課題のためで、あの温もりも情事がもたらした錯覚だったことを思い知らされる。初めから近づいてなどいなかったのだと、全ては虚しさへとすり替わっていった。



「留三郎」

「何か用か?仙蔵」

「おまえに頼みがあるんだが…」

「おう、何だ?おまえが頼み事をしてくるなんて珍しいな」

脚を止めて振り返ると、心底申し訳なさそうな表情の仙蔵と目があった。手元に抱える巻物をみる限り、どうやら依頼は用具の修理関連の件ではないらしい。

「急で悪いのだが、明日一緒に任務をする相手を探していてな」

「ほう、何だ。本当に珍しい話だな」

組が違う仙蔵とは話す機会も少なければ、任務を共にすることなど更に稀である。とは言え、断る理由も差し当り見つからず、すぐに2つ返事で応じる。


「難しい任務なのか?」

「いや、それほどでもない。…本当は文次郎と組むつもりだったのだが、今のあいつは前線には立たせられないと私が判断したのでな」

「は?…何でだよ?」

突然出てきた名前に思えば深い事情を知りたくない気もしたが、それは素直に疑問を口に出した後だった。訳がわからないと首を傾げる留三郎に、仙蔵は腕組みした手に力を込め、八つ当たりとはっきりとわかるように苛立ちを露わにする。

「知らんのか?これまでは隈をこさえながらも、自己管理はぎりぎりのところで徹底していたから何も言わなかったが…今の馬鹿な行動は目に余る。最近落ち着いたと思っていた分を取り戻すように鍛錬だと身体を動かしていて、集中力が低下していることにすら気付いていない。あの鍛錬馬鹿め…」

「お、おう…」

い組ならではの口の悪さに辟易しつつ曖昧な相槌を返すと、仙蔵にぎろりと睨まれた。

「全く何があったのかなど知りたくもないが…出発は明日の昼だ。大丈夫か?」

「…わかった」


恐らく仙蔵としては、わざわざ自分が他の相手を探す手間をかけさせられたことが気に食わないのだろう。最初の申し訳なさそうな態度が一変、詳細の書かれた巻物を押しつけられたときには、すっかり彼のペースに流されていた。


仙蔵からその名前を聞き、心なしか喧嘩で触れあう機会さえも減ってしまった男のことを久しぶりに真剣に想う。文次郎の変化に自分が影響しているなど、自惚れる都合のよい思考回路はもう捨てた。何度もあの頃の夜を回想すればするほど、気付くことがある。


――自分は最初の一夜以来、文次郎から好意を匂わせる台詞など与えられていない。ならあの言葉は?課題のために俺を釣り上げるためのエサだったのだろうか。






密会が行なわれなくなってからでも、留三郎は文次郎との逢引に使用していた小屋を変わらず訪れていた。もともとあの小屋は、自分が以前から伊作が真夜中に自室で薬の調合をやり始めたときに利用していた避難場所でもあるので、手放すに手放せない。


ただ小屋に向かう際に、また文次郎があそこで待っているのではないかという期待は、どうやっても消し去ることが出来なかった。






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