25日目
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(文次郎視点)



留三郎と暮らし始めて、早いことにもう半月以上が過ぎた。

怪我は、かなり回復していた。この家で初めて目覚めたときの、絶望的な状態が嘘のようである。四肢は脳の指令を受けて正常に反応し、動かす度に襲ってきた鋭い関節の痛みもいつしか僅かな鈍痛へと変わっていた。しかしたった数週間といえど、寝たきりで過ごしていた身体はすっかり鈍っているようで、完璧に本調子といえない。昨日から易しい鍛錬を始め、筋力を取り戻すことから始めなければいけないと確認したところだった。





長い冬が終わりを告げようとしていた。道端では可愛らしい草花が小さな春を彩り始めている。近隣の村で桃の節句を祝う祭りがあるというので、留三郎に連れられて出掛けることになった。

「外を歩き回る練習にちょうどいいだろ?ずっと引き籠っていたわけだしな」

「とはいえ…男二人で、桃の節句祝うってどうなんだ?」

「祭りは祭りだ。桃の節句の祭りなら、桜餅くらい売ってるんじゃねぇかと思ってな。文次郎、甘味は好きだろう?」

「…そんなことまで覚えていたのか」

こんな会話に対しても、最早恥ずかしさや戸惑いより呆れた気持ちになる。いつの間にか、懐かしさより親しさを先に感じるようになっていた。



祭りは大層なものではなく、ささやかに珍しい菓子が並べられ、街並みが飾られている程度のものである。騒ぐというほど混雑しておらず、花飾りとつけた娘や子どもとすれ違う程度で、若い男が並んで歩いていても気咎めすることもなかった。

日常では恋情を含んでいるような言葉や仕草を交わしても比較的冗談で済ませているところがあるのだが、その日の留三郎はあからさまに文次郎を甘やかしてきた。ことあるごとに菓子を勧め、さりげなく腕を絡めてくる。あまりに極端に見え文次郎が注意するも、誰も気にしねぇよと一蹴されてしまった。

「俺たちさ。どちらかが女装すれば、恋仲に見えるんだろうか?」

「?おまえは絶対に俺に女装しろというかと思ったが…どちらでもいいのか?」

「いや、そりゃ俺だって男役の方がいいけど、文次郎の女装って…ほら、あれだろ?」

「てっめぇ!」

「冗談だって」

殴る真似をしてはみたが、留三郎は本気で取り合わなかった。





木陰に残る白い雪を見つめながら、文次郎はふと脚を止める。

あの大木が満開を迎えるのを待つことなく、数年前自分たちは一度道を違えた。あの頃の文次郎に、こうして彼と並んで歩く将来など想像できたはずもない。


――では、今度は?自分たちはまた別れを選ぶのだろうか…?

文次郎に不安はない。それは、彼の中で答えが決まっている証でもあった。



「文次郎?どうかしたのか?」

「いや、狐に化かされているみたいだなと思ってな」

「…この生活が、か?」

その言葉に留三郎の腕を掴む力が心なしか強くなる。隣を振り返れば、彼は腕の力に反して悲痛な表情をして佇んでいた。

「もうすぐ春だな」

「ああ」


彼に騙されていられる時間も、終わりが差し迫っている。






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