5日目
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(文次郎視点)





「おい、服を脱げ」

「は?」

数冊目の忍術書を片手に横になっていたら、唐突に留三郎に命令された。


留三郎と共に暮らし始めて5日目。寛ぐことを覚えた文次郎は、この日も部屋に積み上げられた書物を捲り、暇を持て余していた。

現在も互いが密かに好意を抱いていることは、暗黙の了解となっている。だがまさか身体目当てだったのかと、利害関係で物事を見るのになじんでしまっていた文次郎は、一瞬身体を強張らせた。それに目敏く気付き、留三郎がさも可笑しそうにけらけらと笑う。

「馬鹿、包帯を替えるんだよ。傷も消毒しねぇといけないし、身体だって拭きたいだろう?」

「う、うるさい!わかっているわ、バカタレ!」

勘違いの恥ずかしさに、顔から火が出るかと思う。照れ隠しに慌てて上半身を起し、服をずらしていけば、脱いで初めて自分の怪我は相当酷いことを自覚した。

「なんだ。襲ってほしかったのかよ?」

「んなわけあるか」

甘くも何ともない、冗談だとわかりきっているやりとりだが、それ故にこそばゆい。そんなもどかしい文次郎の心中を余所に、既に留三郎は真剣な顔つきで薬を並べ、準備に取り掛かっていた。




腕が上手く持ち上がらないので、服を脱いだら後は留三郎に処置を任せる他はない。包帯を全て解かれ、順に傷口へ新たに薬が擦り込まれる。誰かに治療を受けることさえ、よく考えれば学園以来なのだ。

薬が傷に染みる痛みより、その無防備に曝した背中が気になって仕方ない。留三郎の長い指が、体中を撫ぜるように這う。その丁寧すぎる手つきは、何より雄弁に自分への心配を語っているようでやるせなかった。


「これでよしと。脚は後でやるから、まずは上の包帯を巻きなおすぞ」

「ん」

職人気質の彼は怪我の手当てに夢中で、これだけ身体が密着していても実際は何も考えてはいないのかもしれない。包帯を巻くために背後から腹へ手がまわされ、丸腰である自分の状態に改めてどきりとする。本来は他人に身体を触らせること自体、忍びとしてはあってはならない。

留三郎は文次郎の肩口から顔を覗かせているため、首元に吐息が当たっていた。頬が触れ合う至近距離だが、不思議と嫌な気はしない。肌を合わせることが嫌ならば、そもそも相手と喧嘩などしないのだ。それが二人の長年の間柄の証拠ともいえる。



「…よし、巻けたな!次は足を出せ、文次郎!」

まるでアヒルさんボートを完成させたときのように自分の作業の出来栄えにはしゃぐ留三郎に、文次郎ははっと我に返る。

「なんだ?きつく締めすぎたか?」

「いや、大丈夫だ。ありがとう」

慌てて脚を留三郎の方へ傾けると、彼はどこか寂しそうに微笑んでいた。

「…?なんだよ」

「いや、随分素直に礼をいうようになったなと思って」

「…世話になりっぱなしだからな」

「…ごめんな」

「?何で謝る」


何故か笑みをひきつらせた留三郎に困惑するも、彼はその理由を答えようとはしなかった。







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