体育祭 2
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(文次郎視点)







あっという間に、学園は体育祭当日を迎えていた。

普段は暇を持て余している学級委員長委員会が、今日限りはあちこち走り回っているのはあの頃と変わらない。とはいえ、事前の準備は仙蔵の指示のおかげで完璧に終了しており、体育祭は順調な滑り出しで始まっていた。


大川学園は学園の規模の割に生徒数が少ない。そして、学園の生徒のほとんどが忍術学園時代の所縁があるものたちばかりである。

今回の体育祭の組分けは、学園長の指令通り、白組と黒組の2つに分けられることになった。その組分け基準はランダムであり、文次郎たちは、今回は白組の団長が仙蔵で他は長次と伊作、黒組の団長が小平太で他に文次郎と留三郎という顔になっている。小平太は白黒で団長を共にい組がやればいいと提案してきたが、転校したての文次郎はその大役を辞退していた。





始めのプログラムの応援団によるエール交換が始まり、小平太の威勢のよい声が校庭に響き渡る。後ろで太鼓なりを構えてそれを援護する体育委員会の面々という光景は、見ていて気持ちが良いものだった。もちろん、こういったイベントが好きな文次郎も声を出して参加する。隣では初等部から特別参加している団蔵や左吉がやはり楽しそうに叫んでいた。


先行の小平太の元気あふれる応援の後に、仙蔵は一体どうするのだろうかと見守っていたら、彼は思ったよりも自然に大声をあげ応援を始めた。仙蔵率いる白組の応援は、小平太とは異なる凄みや迫力を感じる。



するとその応援の合間から、聞き慣れない黄色い歓声がわっと広がった。

「な、なんだあれは…?」

「なんだ?文次郎は知らないのか?」

文次郎が思わず呟くと、応援衣装の長ランからジャージに着替えた小平太がどしんと隣に腰掛けた。

「何のことだ?」

「この学園は学び校舎や授業は別だが共学だろ?学校行事は女子部と合同でやるんだ」

そう言うと、体育祭では女は見学だけだけどな、と付け足した。

「仙蔵は女子に人気があるんだ。あいつが壇上に立つといつもああだぞ?」

女子部は以前のくのいち教室の人間よりもより一般の人間も多く混じっているらしい。そこで仙蔵はカリスマ的生徒会長として羨望の眼差しでみられているとのことだった。

「他にも留三郎あたりは女子生徒に人気があるみたいで、よく声をかえられているぞ?」

へぇと新しい知識に純粋に驚くと、小平太が興味津津といった様子で顔を近づけてきた。

「なぁ。文次郎はまだ三禁云々など気にするのか?」

「は?」

「文次郎といえば、常々そう叫んでいただろう?まぁそんなこと言っていたくせに、最後の方は留三郎とぐむっ…」


何かを言いかけた小平太の口を、後ろから突然現れた留三郎が塞ぐ。何をするんだと暴れる小平太を余所に、留三郎は気にするなよと文次郎に笑顔を向けた。

「余計なことを言うんじゃねぇよ」

「私は本当のことしか言ってない!」

「だからって勝手に人のことぺらぺら話すんじゃねぇ!あの頃はあの頃、だ」

言い聞かせるような留三郎の言葉に、文次郎は心臓を鷲掴みにされたような息苦しさを覚える。



話題を変えたくて、思いついたように校庭を指さした。

「ほら、小平太。おまえの委員会のとこの後輩が走っているぞ!応援しなくていいのか?」

「おっ!滝夜叉丸が走ってる!じゃ、文次郎、留三郎。また競技でな!」

小平太は勢いよく立ちあがると、校庭がよく見える前の方へと駆けて行った。先程まで彼が座っていた場所に、今度は換わって留三郎が腰掛ける。


「おまえ…小平太に他に変なこと言われてねぇよな?」

「…変なこととはなんだ?」

文次郎には彼の言いたいことがわからなくもなかったが、しらばっくれてそう尋ね返した。留三郎は少し考えるような態度を見せた後、何でもねぇよと言葉を切った。


「ところで…さっき言っていた三禁云々は、実際のところどうなんだ?」

その言葉に、校庭では喧騒が繰り広げられているというのにも関わらず、文次郎は自分たちの周囲だけ音が消えたような錯覚に一瞬陥った。それだけ相手の声色は真剣味を帯びていたからだ。

「俺が現代でも三禁を気にするとかそういう話か?」

「ああ」

「あの頃は確かにぎんぎんに…今になって言うとこの言い方もかなり気恥ずかしいのだが、ただ忍者であろうとしていたかもしれないが、それと今は全く関係ない。とはいえ現代に通ずるところも多少あるとは思うが、三禁を頑なに守ろうとは思ってないな」

「…そうか」

質問をした留三郎は、その答えに複雑そうに表情を歪めた。次に言うべき言葉を探しているようで、珍しくこちらと目を合わせずに視線を彷徨わせている。


けれど文次郎はこれ以上話を続けることを拒み、「ところでよ」とこの雰囲気から逃げるようにわざと明るい声を出した。

「せっかくの体育祭なのに、おまえと同じ組はつまらんな」

「は?」と、留三郎が間抜けな声をあげる。

「せっかくおまえと大舞台で正々堂々勝負ができるチャンスだったのによ。まぁ敵も倒しがいのあるやつらだけどな」

そう言ってにやりと笑うと、相手にはこの発言は意外だったようでこちらを凝視してきた。

「…仙蔵に長次に伊作だからな。何と言うか、性質の悪そうなやつが揃ったというか」



本人たちに訊かれたら間違えなく殺されるな、と二人で笑い合う。

自分が記憶のない振りを装っているからなのか、それとも時代がかわったからか。相変わらず喧嘩することはしょっちゅうではあったが、一方でこうやって二人の間には穏やかな関係が築かれつつあった。好敵手として願ってもない立ち位置ではないかと、文次郎はまるで暗示のように自分に言い聞かせる。




それでも二人でいると、全て話してしまえば…という期待が拭いきれない。決意が、揺らぐ。











「そろそろ俺たちの出番じゃないか?」

「こんな序盤で棒倒しとは、なかなかえげつないプログラムを組みやがって」

「今回のプログラムの順は全部くじで決めたらしいぞ」

「…あの学園長ならやりかねん、か」


庄左衛門のはきはきとしたアナウンスに後押され、ふたりは各々立ち上がった。





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