文化祭 3
.





(留三郎視点)




結局予算案を受け取った日から、文次郎とまともに話をすることができずに、気付けば文化祭当日を迎えていた。1週間近く学業そっちのけで準備した甲斐もあり、学園祭は開始30分ですぐに順調な盛り上がりを見せている。校舎の中はあたかも始めから共学校であったように男女が入り混じり、準備期間に上手く結ばれた者達は、ここぞとばかりに肩を並べて青春を謳歌していた。


留三郎も実は事前に幾人かの女子生徒に誘いを受けていた。どれもこれまで同様に断ったが、今までと違い決まりが悪い。特に「お付き合いしている彼女がいるのですか?」と質問を投げかけられたときの居心地の悪さは、いつまでも悶々と胸の中に残った。


「食満先輩…!」

「あ、悪い。今、人を捜しているから後にしてくれ」

それでも当日、ひとりで歩いている姿を見られるとまた1人少女に掴まってしまう。俺の何処がいいんだと嘆きたくさえなる心持で、留三郎は慣れない愛想笑いを返しながら校舎の隅々を駆けまわっていた。







「おい、仙蔵!文次郎は何処だッ!!」

「なんだ、留三郎。文次郎と一緒に文化祭は回らなくていいのか?」

「一緒に回りたいに決まってんだろ!それで今、捜しているのだが…」


飛び込んだ文化祭設営本部では、実行委員長を兼任している生徒会長の仙蔵と救護班もといトラブルを起さないように強制待機となっている伊作が茶菓子をつまんでいた。文化祭の浮かれた空気に堪え切れなくなった文次郎も此処にいるとばかり思っていたのだが、残念ながら彼の姿はない。

「文次郎なら、さっき小平太と長次に連れられて遊びに行ったよ」

「はああ?」

「そう怒鳴るな。事前に約束しないおまえが悪い」

「準備期間に入ってから、全然会う機会がなくて言えなかったんだよ!昨日思い切って電話したが、案の定繋がらなくて…」

その場にずるずるとしゃがみ込んで落ち込む留三郎に、仙蔵と伊作ははたと顔を見合わせる。「校内放送で呼び出してやろうか?」とまで仙蔵が気遣ってくれたが、後でどんな文句を言われるかもわからないので、その申し出は辞退する。

「小平太と一緒だから、すぐに見つかるんじゃない?」

「何で他のやつと回るんだよ……あの鈍感」

「でも、普段は犬猿の仲のおまえらが仲良く文化祭を回っていたら、あらぬ噂が立つんじゃないのか?」

「……噂なぞ俺は構わないが。もしかして文次郎はそれが嫌だったから俺を誘わなかったのか……?」

「馬鹿もの、それくらいで諦めるな。大丈夫だ、おまえらが恋仲なんぞ、学園時代の輩だって全員はわからなかったのだからそれはない」

「…それは励ましになってねぇよ」

「はは、それは悪いな」



けらけらと笑う伊作と仙蔵の組合せは、これ以上構うと性質が悪い。適度な所で会話を切り上げると、留三郎は再び文次郎を捜すため、人混みの中を走りだした。とりあえず小平太が行きそうな屋台をと思考を巡らせるが、突然校舎内をBGMとして流れていた楽曲が止まったので、つられて脚を止める。

ピンポンパンポンと定番の音楽と共に流れ出した校内放送に、先程のやりとりを思い出してぎょっとした。



まさか仙蔵が本当に校内放送を使って?という動揺は、呼ばれた名前で拍子抜けすることとなる。恐らく鉢屋三郎だろう。聞き取りやすいが、どこか意地の悪い声色のアナウンスは確かに自分の名前を呼んでいた。


『高等部2年、食満留三郎君。高等部2年、食満留三郎君。至急放送本部まできてください』







.


[*prev] [next#]

戻る

TOP











「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -