「その時は、殺すよ」

その人はふふ、と笑って僕に言った。ふわりと風に流れる髪の赤さが目に染みる。


*


サッカー部が帰ってきたのは10日ほど前だった。勿論、先生も生徒も祝福していたし、もはや騒音でしかない声援をする者もいた。まあ、世界にまで進出した部活となれば当たり前なのかも知れないけど。
風丸さんは、一度陸上部に顔を出してそれっきりだ。以前隣で練習していたサッカー部は、すっかり有名になって近くの市民公園で練習試合をやっているらしい。だから最近は風丸さんと会話をしていない。戻る、って言っていたのに。

*

以前、風丸さんが陸上部に顔を出した時、雷門中の寮に泊まっている元エイリアの人がいると聞いた。その人もまた、円堂守という人物に憧れてサッカーをしているらしい。今僕の目の前にいる人の見間違えようのない真っ赤な髪は、風丸さんの話にでた張本人なんだろう。

「ヒロト、さん…」
吉良ヒロト。エイリア学園のリーダー的存在。風丸さんが陸上部言っていた。「あいつ、お前に興味持ってたから、今度話し相手になってみたらどうだ」だっだ気がする。ご丁寧に、お前ら似てるから、だなんてつけて。

「わあ。知ってくれてたんだ、嬉しいなあ。はじめまして、だね、宮坂くん。同い年なんだから、呼び捨てでいいよ。ヒロトって呼んで」
人懐こい笑みを浮かべ、淡々と言葉を並べる様子は誰が見ても異様であり、僕はあまりこの人に関わってはいけない気がして差し出された右手を握れなかった。

「あはは、そんなに警戒しないでよ」
にっこり笑ったヒロトさんは無邪気に無表情だった。

「今日は挨拶に来ただけなんだ。風丸くんがいつも話していたから、気になって。」
笑顔を崩さずに、しかしあくまで無表情に、彼は続ける。
「僕たちが似ているって言ってたんだ、だから、ひとつだけ言いたくて。あ、誤解しないでね。僕は風丸くんのことは好きじゃない。むしろ嫌いかな!だって僕の円堂くんの幼なじみなんて、羨ましいし妬ましいじゃないか。出来れば死んでほしいくらいには嫌いだよっ」
語尾にハートでも付くんじゃないか、なんて思うくらい弾んだ調子で言う彼は、風丸さんが言ったように、確かに僕に似ていると思った。

僕は真逆だけど。僕の世界には風丸さんが居れば、
「風丸くんが居ればそれでいい、だよね。君の世界には円堂くんはいらない」

ぞくり、とした。今僕は口に出していたのか、いいやそんなことはしてない。それに、今まで笑顔を崩さなかった人がいきなり無表情になるのはこんなにも恐ろしい事だったか。握りしめた右手が震える。一刻も早く此処から逃げたい。
そんな僕の気持ちなど知らずに、ヒロトさんは僕の左手を握った。

「取引しようよ、君も知ってるよね、風丸くんと円堂くんは付き合ってる。そんなの、おかしいと思うんだ。だってさ、僕の方が円堂くんを愛してるのに大好きなのに不公平だ、…だから風丸くんはいらないよいらないいらないいらない!君は円堂くんがいらないんでしょうふざけてるでも許してあげるだってその方が都合がいいもの…ねぇ僕のお願い聞いてくれない?あの二人を引き裂いて僕たちがそれぞれ付き合うんだ。いい案、じゃないかな?」
どんどん力が入っていく言葉に比例するように左手は握りしめられていく。

「協力してほしいんだ。君ならできる…信じてるから。ただし、僕の円堂くんに触れないでね」

にっこり。初めと同じ笑顔で笑ったヒロトさんは無意識に僕を脅していた。逆らえない、逆らってはいけない。僕は、小さく頷いて左手を振り払おうとした時、ヒロトさんは笑顔で言った。

「もし裏切ったらその時は殺すよ」

あまりにもさらりと発せられた声に耳を疑った。その意味を理解したときは、ヒロトさんはもうサッカーグラウンドに駆けていっていた。
立ち去ろうとした時、なんて人に関わってしまったんだろう、と思ったけれどもう遅い事くらいは僕も解っている。一気に明日からが憂鬱になった。
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