雨はいつまでも降りやまなくて、傘もささずただ立っている俺を濡らす。
服に滲みた雨が肌を濡らしては冷たくなっていく感覚に思わず身震いすれば、なんともつかない気持ち悪さが腕と背中を駆けた。
通りすぎる人達の好奇が混じった不快な目線は殆どが俺に集まり、間接的な害意の気持ち悪さを向ける。それが仕方無いことでも、吐き気がするように苦しい。
なんでこんなことしてるんだろう、俺。

「…康太くん!」
聞き慣れた声がして顔を上げれば、急いで来たのかずぶ濡れの久保が肩で息をしながら自転車を路肩に停めていた。
なんでこんなとこに、なんて虚ろな頭で考えても答えはでないことはわかっていた。なんでこんなことしてるのかすら解らないんだから。
そんなことを考えている間に久保は走ってきて、俺の肩にタオルをかけた。
只なんとなく、それを触ればいつもの慣れた匂いが鼻腔を擽って、頬が緩む。洗剤の匂いなのか定かでは無いけれど、一番大好きで落ち着くもの。
久保と一緒にいて満たされるときの、あの感情が沸いてくるような、そんな感覚に包まれる。
暖かくて凄く気持ちがいいそれは、雨の冷たさを少しだけ消したように思えた。
ふと、久保の表情が気になって顔をあげてみると、ぽつりぽつりと降っていた雨粒が目に入った。瞳から零れた雨粒はまるで涙のようで、おもいっきり拭った。悲しませたくないから。

「…こんなところでなにしてるんだい、」
心配したんだよ…と、諭すように、あやすように優しく動く唇は綺麗で思わず触れたくなった。
ふに、とかふわ、とか言いそうな柔らかい唇は、俺が手を伸ばして触れようとする前に俺の額にキスを落とした。それがいやにゆっくりとした動作に思えたけど、きっとそう長くはない。離れた唇が、顔がもう触れられないくらいに遠く感じられたから。
なんだかその瞬間に切なさが込み上げてきて、切なさと悲しみだけが感情を支配したみたいに辛くて、苦しくて死んでしまいそうになった。
それに加えて久保のいつも見せないような悲しげな表情が、自分がこの人を苦しめているという事実…では無いかも知れないけど、それを突き付けられているようで直視できなくなって思わず目をそらした。
辛い。苦しい。よく考えれば、そればっかりの世界から連れ出してくれたのは久保だったかもしれない。
いつも暖かくて優しい久保は、俺をいつだって一番に考えてくれていた。そう、今だってきっとそうだ。俺が居なくなって心配で、ずっと探してくれていたのかもしれない。いや、絶対にそうだと思う。この雨の中ずっと…、
自意識過剰だと言われたらそれまでだ。それでも全くかまわない。ただ、久保を信じていたいと思うから。それが一方的なものでも。

遠く感じたその体を抱きしめたとき、俺は自分が泣いていたことに気付いた。雨で流れてずっと気付かなかったけれど、きっとさっき拭ったのも無駄だったんだろう。
今度は涙が溢れるのがわかった。
それは今までの冷たいものではなくて、

あなたのお陰で
(とても暖かいものでした。)
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企画参加ありがとうございます!
全然シリアスじゃないですね…
すみません。


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