沈みかけた夕日の橙色がまぶしくて目を細める。それを見て笑った宮坂がなんとなく愛しくて、繋いだ手をさらに握りしめた。
しばらく無言で歩いていれば、河川敷の夕日に照らされた桜が目に入る。それはふわりと揺れて、花びらを散らした。まだ満開とは言えずとも、名画のように綺麗な光景に見とれていれば、隣で宮坂が感嘆の声を漏らした。

「綺麗、ですね。」
風丸さんと初めて帰った日を思い出します、なんて無邪気な笑みを見せた宮坂は、桜と協調するように儚げで、消えてしまいそうで、思わずふわりと抱き締めた。顔が紅く見えたのはきっと夕日のせいだろうと自分に言い聞かせ、自分の火照る顔が見られていないか少し心配になった。

「もう、風丸さんとこの景色を見るのも最後なんですね」
宮坂は伏せがちな瞳でそう呟くと、ぎゅ、と俺のジャージを握った。その手が震えていたのを、俺は見逃さなかった。

「宮坂‥」

「‥すみません、こんなの、今言うことじゃ無いですよね」
ついに俯いてしまった宮坂は、泣いている様にしか見えなかった。ジャージを放して、河川敷に降りていった宮坂をゆっくりと追いながら、二年前の初めて会った時を思い出した。

初対面は俺が中2になってすぐ。陸上部に仮入部しに来た宮坂に話しかけたのが始まりだった。それから凄く仲良くなり、確かにとても良い後輩だとおもっていたけど、まだその時は宮坂がこんなにも愛しい存在になるとは思わなかった。いや、誰が考えるだろうか。いくら可愛くても宮坂はれっきとした男で、本来ならば今の関係は間違っているのだろう。

いつもの場所に座り、さっきよりも口数は減ったが他愛もない話をしながら穏やかに流れる川を眺めていた。宮坂を独り占め出来るのはこの時位しか無い。この時だけは自分たちの家が遠ければ良いのに、と思う。出来ることなら長い間こうしていたいと思うのは、きっと我が儘ではないはずだ。

この二人きりの心地よい時間は、長いようで短い。だからこそいいのかもしれないけど、やはり寂しさは消せない。最後ともなれば尚更だ。

「風丸さん、うち、ここです」
繋いでいた手がふっと離された。此方を向いた宮坂は、うまく笑えていない顔で送ってくれてありがとうございます、と言った。いつも送るのが当たり前だったために、改めて言われたそれがまた寂しさを増した。

「宮坂、今までありがとう、な」
今の俺はうまく笑えているだろうか。きっとひきつった笑いしかできていない気がする。気を抜いたら泣き崩れてしまいそうだった。

「…はい、こちらこそ。あと、卒業、おめでと、う、ござ…、」
最後まで言い切らずに泣いてしまった宮坂をなにも言わず抱きしめて、気づかれないようそっと零れてきた涙を拭った。


「…もう、会えない、ん、です、ね」
必死に涙を堪え呟かれたそれに俺はなにも答えることができなかった。