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僕はファーストが採寸から戻ってくるまでの間中ずっと横丁の往来を眺めていた。背の高いハンサムな魔法使い、針金のように細い魔女に禿げ上がった中年の魔法使いなど様々な人が行き交うのを見るのは意外と面白いものだったりもする。そうして意識を別のところへもっていくことで、「この後」を考えないようにしていた。考えてしまうと決まって出るのは溜め息。


「そんなに溜め息を吐いてどうかした?疲れてしまった?」
「っ!」


声にならない驚きと、肩が跳ね上がるのを感じて声のした方へ顔を向ければファーストが立っていた。


「お待たせ。今採寸が終わったの」
「あ、うん…」
「行きましょ?レギュラス」


どこに?と僕の言葉が口から出る前にファーストはカランと小気味良い音をさせて店から出た。僕も慌ててそれに続く。


「これで買い物はおしまいね」
「うん」
「レギュラスのおかげで助かったわ」


もう帰るんだろうか。僕の頭はそれでいっぱい。もっと一緒に居たいのに彼女を上手くエスコートする術が思い付かなくてやきもきした。


「ねぇレギュラス」
「何?」
「まだ時間はある?」
「…?大丈夫だけど」
「ならあそこに行ってみましょうよ。付き合ってくれたお礼に好きなものを頼んでいいから」


キラキラ輝くファーストの視線の先にはフローリアンフォーテスキューアイスクリームパーラーの文字。如何にも女の子が好きそうな可愛いや美味しいや甘いが詰まってそうな内装。きっと僕には一生縁がないだろう店。ファーストが居なかったらきっとその存在を知らないままだっただろう。


「?レギュラス?」
「うん、今行く」


僕はファーストの背中を追い掛けた。
店に入ったファーストは気後れすることなくメニューを店員に素早く伝えると、テラスに座る僕の元に小走りでやってきた。


「疲れたんじゃない?レギュラス」
「平気。ファーストこそ」
「私は全然平気。レギュラスがいてくれたから助かったもの…」


ドキンと跳ねる心臓を遮るようにして、甘そうなサンデーを2つ店員が持って現れた。1つはストロベリーやラズベリーといった甘酸っぱい果実とアイスクリームやホイップクリームがふんだんに盛り付けられた物。これはファーストのだ。僕のはガトーショコラや濃厚なチョコレートが掛かった物。これにもアイスクリームやホイップクリームは盛られていたが、ファーストのに比べたらまだ甘さは控えられているような気がした。目の前のファーストは恍惚とした表情を浮かべながら一口また一口と口に運んでいった。


「ねぇレギュラス。聞いておきたい事があるんだけど」
「何?」
「ホグワーツってどんなところ?私はうまく馴染めるかしら」


面食らった僕は手からスプーンが零れそうになるのに慌てた。


「もう!そんなに動揺しなくてもいいじゃない」
「あ、えっと…ごめん」


ファーストは憤慨したかのように言ったが実際は朗らかに笑っていた。


「ファーストなら大丈夫だよ」
「本当?」
「うん」


きっとファーストは上手くやっていける僕が傍に居なくとも。兄さんに似てファーストは世渡りが上手な感じがした。僕と違って。


「私はどこの寮かしらね」
「え」
「スリザリンかしら?それとも…」
「スリザリンに決まってるっ!」


ガタンと席から立ち上がった僕にファーストの瞳はビー玉のようにまん丸くなった。


「…レギュラス…?」
「その…ファミリー家は闇の魔術に傾倒してる節もあるし、何より例のあの人が‥」
「うん、そうね。そうかもしれないわね」


言葉を遮ったファーストの表情は曇っていて、気まずい雰囲気に僕は目の前のサンデーを口に詰め込んだ。ズドンと胃に重石が入ったような重みを感じたがきっとそれはサンデーの所為。


「そろそろ帰りましょうかレギュラス」
「…うん」


賑やかなアイスクリームパーラー、賑やかなダイアゴン横丁、明るい光に満ちたそれらに別れを告げて僕はファーストの後ろに付いて歩いた。行きと逆転してしまっているのがどこか可笑しい。暗い暗いノクターン横丁は闇で溢れていた。僕らは最初に行き着いたブラック家行き着けの魔法薬の材料を扱う店へと歩を進めていた。そこは全く時間が流れていないような不思議な空間だった。相変わらず薄暗く埃っぽく黴臭く客は一人としていない。それにドラゴンか何かの目玉は変わらずぷかぷかと浮いていた。そのいくつかとぱちっと線がかち合ったような気がして気持ちが悪い。ファーストはあれから何一つ話すことはなかったというのに、突然店の暖炉の前まで来るとくるりと振り返った。


「レギュラス今日は本当にありがとう。また9月1日に会いましょう」
「…またホグワーツで」
「えぇそれじゃあ」


そしてファーストはエメラルド色の炎に包まれて消えた。



10.10.26
(10.10.30up)

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