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しばらくの間、スリザリンの談話室はファーストを取り囲む取り巻きで溢れていた。皆、その厭らしい欲望を表面上感じさせないのだから、スリザリンの狡猾さが逆に浮き彫りだっているようだった。そんな取り巻きに冷たい視線を浴びせるのも常になっていた。あれからファーストと改まって話す機会はない。兄さんともあれ以来話していない。なにより兄さんとはここ数年会話らしい会話はしたことがなかった。それほど確執は深まっていた。


「隣、いい?」
「っ!」


スプーンを口に入れたまま、その言葉にぴくりと身体を揺らした。周りの気配すらも感じ取れずに、考えに没頭していたのかと自嘲した。僕の返事を聞かずに隣に座ったファーストは、ちょうど今僕の思考を支配していた人物の一人だ。何かが彼女を引き寄せるのか、少し言い知れぬ不安が身を過ぎった。


「なんだか久しぶりね」
「そう?」
「うん」
「…ホグワーツには慣れた?」
「うん、みんな良くしてくれるから」


ふわっと微笑んだファーストに顔を逸らした。それと同時に上空を滑空するふくろう達。そのふくろうの中でも貫禄のある茶褐色のがっしりとしたふくろうは、他の無作法なふくろうとは違い静かに目の前のテーブルに手紙を落とした。そして他のふくろうのように執拗に餌を強請ることなく、飛び立っていった。


「今の、うちのふくろうなの」
「そう」
「お母様からの手紙…」


そっと手を伸ばして触れた手紙を裏返せば、ぴちっと蝋で封がされていた。ファミリー気の家紋が浮かんだソレをファーストは戸惑いがちに開いた。娘の新しい学校での生活を案じた母親からの手紙だろうと、僕は気にも留めずに食事を再開させた。途中ファーストが何かを発したような気がしたが、僕は特にそれを重要視していなかった。


「ファースト?」
「え?」
「早く食べないと朝食の時間が終わる」


ずっと手紙に吸い寄せられているファーストの視線は僕が声を掛けたことにより遮断された。きっと僕が声を掛けなければファーストはとても少量の朝食だけで昼食まで持ち堪えなければならなかっただろう。ファーストは小さくごめんなさいと呟くと、バスケットに入ったパンに手を伸ばした。


「じゃあ僕はもう行くから」


確か今日最初の時間は飛行術で、グラウンドまで行かなければいけないと頭の中で整理しながら席を立った。グラウンドへは少なくとも10分は見ておきたい。それほど大広間からは離れた場所に位置していた。


「れ、レギュラス!」
「何?」
「…あの…その」


なかなか言葉を紡ぎ出さないファーストは俯きがちで、僕は怪訝にその姿を見る。


「?…悪いけど、急ぐから」


僕はファーストの言葉を遮って身を翻した。少し影が掛かったように暗い表情のように見て取れて、それがあまりいい話ではないと瞬時に判断した僕はファーストに背を向けた。狡猾さは時に罪。そして僕は飛行術を受ける為グラウンドに向かった。



10.12.24

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