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ブラック家は現存するすべての純血魔法族と血縁及び姻戚関係を持っている、由緒正しい家柄である。ファミリー家もすべてとまではいかないが、それに近い地位と権力を持っていた。そんなファミリー家のファーストがちやほやされるのは至極当然の事だった。想像することも容易いというのに、僕の心は嫉妬心に塗れていた。夕食時のアレハンドロロドリゲスの時に似た不快感が胸を支配する。
兄さんと会話した後、僕はちらりと図書館に寄り探していた古書を借りた。そして古書を片手に帰って来たらこの光景。薄暗いスリザリン寮の談話室、なのにソファの周りは花が咲いたように華やかでおしゃべりが絶えない様子だった。おしゃべりというか一方的な質問やおべんちゃら。ソファの中心にいるファーストはその一つ一つに答えているようだった。ファミリー家と近付くことで利益を得ようと考える浅ましさ、狡猾さはさすがスリザリンといったところか。入学してきた時に身を持って体験したことをぼんやりと思い出す。今のファーストはあの時の僕そのものだ。僕はその様子を一瞥してから男子寮へと歩を進めた。


「待ってレギュラス」


ドキリとして声がした方へと振り返るとソファから立ち上がりこちらを見つめるファースト。そして不思議そうに交互を見る生徒。呼び止められた僕自身も実際困惑していた。


「あの、今から時間ある?話がしたいの」


そのソファに群がる生徒達はいいのか、と問いただしたかったが僕はゆっくりと頷いていた。ファーストは周りの生徒に断りを入れると僕へと駆け寄って来た。どことなく感じる優越感を振り払うように僕はスリザリン寮の外へ出た。


「?レギュラス?」
「静かな所へ行こう。談話室は人が多くて嫌になる」
「分かった」


早足の僕に小走りのファースト。スリザリンカラーのネクタイがはためいていた。
静まり返ったホグワーツ校内はまだ消灯時間でもないのにひっそりとしていた。ゴーストすらいないようで、手近にあった空き教室にファーストを誘った。


「話って?」


パタンとドアが閉まったのと同じくして振り返りファーストに言葉を投げかけた。月明かりで照らされる空き教室の中を興味深げに見回すファーストはゆっくりと口を開いた。


「えっと…私、やっぱりスリザリンみたい」
「うん」
「…よろしくね?」
「言いたいことは…それだけ?」


雲が月明かりを遮って、教室内が闇に浸食されるも僕はファーストから目を離さない。ファーストも僕から目を離さなかった。


「シリウスに会ったわ」
「…そう、兄さんはなんて?」
「元気そうだなって他愛もない話」


ファーストは朗らかにそう言っ後シリウス、変わったねとぽつりと吐き出した。そんなファーストの本音は確かに僕の耳に届いた。あんな人放っておけばいい、ブラック家も地位も名誉も名声も何もかもから逃げ出したあの人のことなんて。そう言いたかったのに、言葉は口から出て来ずに変わりに空気が吐き出された。それはうっすらと白く濁っていて冬の訪れを知らせていた。



10.12.07

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