main2 | ナノ




イギリスの夏はじめじめと肌に纏わりつくようで、一向に慣れる気配はない。そして照りつける太陽に悪態をつきながら皆箒を片手にグラウンドへ出るのだ。


「こんな日に飛行術とかついてないね」
「ねー」


友達らと固まって、適当に相槌を打ちながら移動する。グラウンドには先に居たであろう数名が目に留まる。その中には想い人のレギュラスブラックも居る。


「first、レギュラスいるよ?側に行けば?」
「いっ行かないよ!だって迷惑掛かるもの」
「手取り足取り教えてもらえばー?」
「やめてよっ」


ふいっとそっぽを向いた。途端、向いた先にいたレギュラスブラックと視線がばちっと交錯した。胸がドキドキするのを悟られないようにしてまた顔を背けた。あぁ、それにしても暑い暑い熱い。頬が、体があつい。遠くで始業の鐘と号令をかける先生の声が聞こえた。
刹那、ぐにゃりと足に力が入らなくなって地面にへたりと座り込んだ。目の前が真っ暗だ。


「ちょっと!first!?」
「どうしたんです?firstfamily」


パタパタと駆け寄る先生に、ヒヤッとした手は大きい。そしてとても気持ちが良い。


「誰か、firstfamilyを医務室まで付き添ってはくれませんか?」


いいえ、プロフェッサー少し休めば大丈夫ですから医務室なんか行かなくとも。そう伝えたいのに口はぱくぱくするばかりで言葉が出ない。隣でわたわたとうろたえる友人がぼんやりと視界に入ったと同時だった。


「僕が行きます」


女子の黄色い声が挙がったのが分かった。ああ、この声を聞き間違うはずがない。しかし今日この日ばかりは聞き間違いであってほしい。だってまさかあのレギュラスブラックに付き添ってもらうだなんてそんなこと恐れ多いではないか。ぼやぼやと薄れゆく思考、ひょいと体が浮いたと思った頃には私は意識を手放していた。実に勿体無いことをした。


「…ん」
「あ」


ひやりと冷たいものを感じて、私は目を覚ました。どれぐらい寝てたのか、と思ったがまだそれ程時間は経っていないようだ。窓から辛うじて見えるグラウンドでは今も級友が飛行術に勤しんでいる。


「マダム、今外出中みたいだから」
「あの、このタオルブラック…が?」
「そう」


心地よい冷たさのタオルに目をゆっくりと閉じた。そしてまたゆっくりと開いて隣に座るレギュラスブラックを確認する。本当にあのいつも視線で追い掛けていたレギュラスブラック。こんなにも近い所にいるなんて不思議でたまらない。同じ寮であることと同じ学年以外全くといっていいほど接点はないのに。


「あの…重かったでしょう?ありがとう」
「別に?どうってことない」


しんと静かな医務室は、カーテンが掛かっていて他は分からないが私達以外いないような気がした。


「…どうして?」
「何が?」
「あの、私のこと、医務室に」
「…理由なんているの?」


ときん、と心臓が跳ねてそれ以上聞くことは出来なかった。するとレギュラスブラックは小さい子をあやすように、私の髪の毛を撫でた。


「とりあえず、もうちょっと休んだら?僕はもう行くから」
「うん、本当にありがとう…」
「じゃあね…first」


カーテンが揺れてレギュラスブラックは視界から消えてしまったが、レギュラスブラックが最後に発した言葉はずっと耳に残っていた。


10.8.11
熱中症には御用心。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -