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スリザリンの家系は決まってスリザリン、そんなことを言い出したのは何処の誰だ。兄であるシリウスもそうであるし、そのシリウスの隣で眩しく笑うあの人もそう。血に抗ったシリウスを羨ましくも疎ましくも思い、影から様子を眺める。

さわさわと中庭にある噴水が静かな音を奏でる傍にいるのは、シリウスとあの人に何の取り柄もないペティグリューに穢れた血であるエヴァンズ。笑い声が僕の空虚な心を駆け抜けた。羨ましい?疎ましい?スリザリンがいや?いや、そんなことはないスリザリンは僕の誇り。ブラック家は僕の…。
一瞬ちらりとこちらを見た兄シリウスと目があったがふいとすぐに素知らぬ顔で逸らされた、ざわざわと疼く心を必死で抑えているとまた目があった。あの人と。あの人はシリウスと違って目があった瞬間、嫌な顔ひとつせずに微笑むのだ。その微笑みは昔から変わっていない。初めてパーティーで見掛けた時と何一つ。ただその時と違うのはお互いの立場。あの頃はお互い名家の子息と令嬢、ただそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない。しかし今は違う、グリフィンドールとスリザリンという相反する寮に所属しているのだから。一生交わることのない関係。早く、早くこんな愚かな気持ちに終止符を打たなければ。今度は僕がふいと視線を絶ち、中庭を後にした。
きっとあの人は永遠に闇とは程遠い所で生きるのだろう。


次にあの人と出会ったのは静けさが溢れる図書館。ちょうど空き時間で人は疎ら、読書に勤しむには絶好のタイミングだ。僕のお気に入りはあまり人の立ち寄らない図書館の奥。闇に関する書物が図書館の禁書の棚に存在する。そんな書架に近いフロアは必然と人は立ち寄らない。人は光に憧れ光を欲するから。僕には真逆の眩しい世界、縁のない世界。


「レギュラス?」
「あ…」


何でこんなところに?そう口にする前にそれは解決した。


「色んな書架を見ている内に奥まで来てしまったの」
「そうですか…」
「なんだかこうして言葉を交わすのは久しぶりね」


いつだったか、思案したが答えはすぐに見つかった。確か三年前のクリスマス休暇だ。それ以降ホグワーツで過ごすとパーティーに現れることがなくなったから。パーティーぐらいしか会話の機会なんてない。いくらスリザリンの家系で名家とはいえ、今は寮も違うし僕とは学年も違う。


「三年前のクリスマス休暇振りです」


しまった、何でそんな知っているのかと訝しく思われるかもしれないと、思った頃には時既に遅し。しかし目の前にある大きな双眸はぱちぱちと瞬いた。


「そっか、そうだね。最近休暇には帰ってないもの」


帰っていないというよりも帰れない、が正しいのかも知れない。何故なら彼女もシリウスと同じくグリフィンドールに見初められた為に肩身の狭い思いを強いられているからだ。シリウスを見る限りそのような様子は窺えないが。


「…今年、今年の休暇は?」
「きっとホグワーツね」
「そう、ですか」


シリウスやいつものメンバーに囲まれて幸せそうに笑う姿が容易に想像出来た。


「それじゃあレギュラス、私は戻るわね」
「はい」
「シリウスを待たせているの」
「…」


ひらりと手を振って行ってしまう彼女を僕は引き止めることは出来なかった。気の利いた台詞も咄嗟の行動すら出来ない自分が情けない。
きっと僕には眩しくて遠い存在。彼女は太陽で僕はイカロス。きっと破滅してしまう、僕とは天地がひっくり返っても釣り合わない人だから。
だから僕はそっと、気持ちの終止符が打たれるその日まで彼女の幸せを祈り続ける。それが僕に出来る最良の選択だろう。
firstさんの未来が幸せに満ち溢れたものでありますように。



10.7.21

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