「またきた…」
何度目になるだろう。
窓際には梟がびっしりと止まり、庭の物干しにもこれまたびっしりと梟が止まっていた。ここ数日同じようなことが続いていた。酷い時には同じ梟が毎日毎日我が家にやってくる。それもこれも原因、いや元凶はただひとつ。夫であるシリウスブラックである。ピーピーさえずる梟は決まって我が家に手紙を齎す。差出人は決まってシリウスだ。闇払いというのはこんなにもルーズな仕事なのだろうか。
今何してる?夕飯は?今日はすぐに帰るからな!もうすぐ帰る。今帰ってる。その次は決まってバチンと姿現し。
「ただいまっ」
そうこんな風に。幸せそうに、にこやかに言うもんだから私は何も言えなくなってしまう。
「お帰りなさいシリウス」
「寂しくなかったか?」
「いいえ、大丈夫よ。沢山梟が来てるから」
「そうか!ならいっぱい梟を飛ばすからな」
嫌味のつもりで言ったのにそれは失敗で終わった。あまつさえ梟の数を増やそうとするんだからたまったもんじゃない。
「あのねシリウス、そんなに梟を飛ばさなくても大丈夫よ?」
「一人で寂しいだろ?」
「平気よ」
「いいや俺がいなくて寂しいはずだ」
その自信は一体どこから。
「残念ながら平気なの、だって私は一人じゃないもの」
「?俺が仕事に行ってる間は一人…だろ?」
きょとんと不思議そうにするシリウスの左手を強引に掴んで、自らの腹部に引き寄せた。流石に鈍感なシリウスでも分かったようで、何度か目をぱちぱちさせたあと手を左右に動かした。すりすりと動く手がくすぐったい。
「そう…だったな」
「だから一人じゃないって言ったじゃない」
「あぁ」
感慨深いのかシリウスはしみじみそう言った。未だに手は動いている。
「シリウスくすぐったい」
「ん」
「そんな甘えん坊じゃ生まれてくる子に笑われるわよ?」
「どうかな?ジェームズよりはましだと思うけど」
くしゃっと笑ったシリウスは、ゆっくりと手を私の背に回してぎゅっと抱き締めた。きゅうきゅうと程よい力はお腹の子に気を使っているのだろう。
「firstならきっと素敵な母親になれるさ」
「ありがとう。シリウスは…そうね、とても慕われる父親になるでしょうね」
お互い向かいあった顔でくすりと笑い、ゆっくりと口付けた。
10.7.17
(10.7.21up)