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シェパーズパイの決め手はやっぱりソース。ソースに絡んだ挽き肉が絶妙、そんなメインディッシュの側に控えめにフィッシュアンドチップスとモルトビネガーにサラダ、焼きたてのパンにスープが揃えば豪華ディナーの出来上がりだ。例えそれが安上がりであっても、イギリスで鱈が大量に水揚げされ大量に消費する為の料理であっても。


「はぁ…」


彼の好きなチキンも用意すれば良かったか。いや、そんなことをしたら脂っこい高カロリー満載のディナーになってしまう。気持ちばかりに準備したラズベリーのシャーベットは冷凍庫で眠っている。しかしそんな食事も当の本人が現れなくては始まらない。


「闇祓いなんて辞めたらいいのに」


ね?と右手を添えた自身の腹部に話し掛ける。もちろん返事はない。


「早く産まれてきたらいいのに…。1人は退屈だぁ」


先日辞めた仕事を懐かしく思いながら時計を見た。カチカチと進む針は虚しく部屋に木霊する。そして何度目か分からない溜め息が口から吐き出される、といったタイミングで大きな音が庭から聞こえた。バチン、というこの音に見覚えは十二分にある。
ガタンと椅子から立ち、庭へと続くドアへと向かう。ドアノブに手を伸ばした途端、そのドアノブはぶつかりそうなぐらいに私に接近した。内開きのドアが開いた所為であり、その張本人は息を切らして今目の前に立っている。


「ただいま!」


帰ってくるなりシリウスは私を大胆にハグし、頬と首元に沢山のキスを撒き散らした。そんなシリウスに絆されそうになるのを振り払い第一声。


「遅い!」
「悪かった、なかなか仕事が片付かなくて」
「反省してるならいいけど」


ふふっと笑ってシリウスに背を向ける。彼はドアを閉めるなり、上着をソファに脱ぎ捨ててバスルームに向かった。私はそんなシリウスの上着を苦笑しながらハンガーに掛け、ようやく始まる夕食の為にキッチンに向かった。


「ん、何やってんの?」
「スープを温めているの」


誰かさんが帰ってくるのが遅かったから、と零れ出そうになる言葉を飲み込んだ。キッチンに立つ私を後ろから抱きしめながらシリウスが問う。首筋に掛かるシリウスの息がくすぐったくて身を捩るが、シリウスの手は私のお腹の所でがっちりと組まれていて動けそうにない。


「寂しかった?」
「いいえ?ちっとも」


これは嘘。でもシリウスにはそんな些細な嘘もお見通しのようで、喉で可笑しそうにくつくつと笑う声が耳元で聞こえる。


「何よ、何か言いたそうね」
「いいや?それより腹が減ったな、手伝うよ」
「…ありがと」


ダイニングテーブルとキッチンを往復するシリウスを見ながらも手を進める。


10.7.21

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