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なんだか落ち着かないわね、とリリーエヴァンズは自室の中を行ったり来たりした。時折ドレッサーの前へ行ったかと思うとそのたっぷりとした赤毛を手で撫でつけた。


「リリー落ち着きなさいよ」


そんたリリーを窘める。しかしそれはもう何度目か忘れてしまう程で、効果はないようだ。


「だって今日は卒業式よ?卒業式!」


グラジエーション、と滑らかな発音が部屋に木霊した。


「そのうちみんなが呼びに来るわ」
「そ、うね。えぇ分かった」


ぼすん、とリリーが腰掛けたものだから大胆にベッドが揺れた。そんなベッドとも、この部屋とも、リリーとも今日でお別れだ。
よくよく見渡せば、煌びやかで女の子の部屋と化していたこの空間は必要最低限のものだけが置かれていて床には無造作にトランクが2つ。そんな私の視線に気付いたのかリリーは物語を始めるような口調で言った。


「そのトランク…ここに来た時は大きくて運ぶのが大変だった」
「なのに今はいとも容易く持ち運べる」
「そうそう、それにジェームズが一生懸命に持ってくれる」


リリーが膨らみ始めたお腹をさすりながら言った。ふんわりとした黒いローブで知っている人にしか分からないだろうが、そこには確かに生命が宿っていた。


「毎日がキラキラしてた。全てが光って見えて、本当に幸せだった」
「よしてよリリー。あなたこれからもっと幸せになるんじゃない」
「そうなんだけど、こんなこと話す機会なかったから…」
「そうね、確かにリリーに会えて良かった。そうじゃなかったらこんなにも充実した学生生活じゃなかったかも
しれないもの。それにね…」


私が腰掛けていたベッドから立ち上がるとリリーの体が少し浮いた。私はそれを気にすることもなく部屋の窓へと近付く。薄いレースのカーテンを素早く開く。ざっ、とカーテンレールを滑りぬける音が響き渡る。


「悪戯仕掛け人にも会えたし!」


開いたカーテンの先、ガラスの窓の向こうに見える4つの顔。その4つは全て輝いていた。


「あなた達どうして…!」


リリーも驚きながら窓へと近付く。ちょっと前までなら、ここは女子寮なんだから!と口を酸っぱくさせていたのに今のリリーはただただ涙を浮かべた儚い女の子だった。


「迎えに来たんだ」


本当に、出会えて良かった。ずっとずっと大好き。幸せ。チープな言葉達が零れ落ちる。


「リリー、迎えが来たわよ?」
「そうね、行きましょうか」


そして窓辺に脚を掛けた。



11.5.30
最高で最良の日々