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「プロフェッサー」


黒く変色した重たい扉。そこには緑掛かった黴が無数に点在しており、扉と廊下の石畳を隔てる隙間には苔が蒸している。しっとりと湿り気のある空間にはお似合いだ。
そんな扉の向こうにいる人物に声を投げ掛ける。
投げ掛けられた人物は戸棚の前で眉をしかめ、ムッとした表情でこちらを見る。


「貴様にそう呼ばれる筋合いはない」
「教え子にそれはないんじゃないですか?プロフェッサー」
「それは数時間前の話だ」
「卒業したらもうプロフェッサーと呼べないだなんて」


そんなの傲慢だわ、と作業台に隣接するスツールに腰掛けた。その様を見て鼻で笑ったのが分かった。いつもなら早く出て行けの一点張りなのに今日は至極珍しい。


「ミスタースネイプ?」
「よせ。貴様にそう呼ばれると背中がむず痒くなる」
「じゃあ何て呼べばいいの?」


カチャカチャと戸棚の薬品の瓶と瓶が奏でる音が止んだ。


「?あの…」
「貴様の好きに呼べばいいっ」


ただしミスタースネイプは抜きでだ。
そう言うと黒いローブを翻して戸棚の奥へと消えた。
私はそれを見送ってから視線を宙へと送った。


「ミスタースネイプ抜きで、ねぇ…」


祝賀会に沸いているのだろう、こんな地下へと来るような人間はいないのか足音ひとつ聞こえない。ぴちょん、と室内だと言うのに水音がする。心なしかスツールも湿り気を帯びているように思える。立ち上がるとガコンと重苦しい音がしたのがその証拠だ。
そして戸棚の奥へと歩を進める。
「なんだまだ居たのか、」
「セブルス」
「なっ」
「そう呼ぶことに決めたわ」


貴様は昔からそうだ、鼻持ちならない後輩だったと呟いた言葉を背中に浴びながら扉に向かう。


「ねぇお腹がすいてしまったわ、セブルス。今から祝賀会に参加しない?」
「あのような華やかで煌びやかな場は好かん」
「でもそのままだと食いっぱぐれてしまうわよ」
「…致し方ない、同行してやろう。少し待っていろ」
「はーい」


再びスツールに腰掛けた。
そんな彼と次に再会するのは不死鳥の騎士団として活動する折とは、この時思いもよらなかった。



11.5.30
さよならわたしのせんせい