何、幽霊にでも遭遇したような顔してるんです?
暗がりにレギュラスブラックはぽつんと佇んでそう口にした。目の下に隈が出来ていたfirstは、その目元を擦りながらしげしげとそこを見つめる。彼は死んだはずの人間で、今この場にいること自体が不釣り合いなのだ。自然界の理に反している。
「レギュラス…?」
彼は死んだ。あの御方を裏切るという大罪を冒したのだから生きているはずがない。学生時代に慣れ親しんだ校内のゴーストのように透けていない彼をなんと呼べばいいのだろう。
「死人でも見る顔ですね」
「…だってレギュラスは死んだって、そうクリーチャーが」
firstはそう言いながら、あの日のことを思い返していた。先日、ブラック家の屋敷しもべ妖精から聞いた本当の事の顛末と彼の最後を。しゃらんとその証拠と言わんばかりにクリーチャーが見せてくれたペンダントが印象的だったがそれよりもレギュラスが死んだという事実の方が何倍も上だった。
「僕は生きています」
「嘘よ。レギュラスは、あの御方を裏切って、湖で、そして…」
「僕と共に来て欲しい」
「…え?」
「そう言ったらあなたは困るのでしょうね」
寂しそうな瞳でfirstを見つめるレギュラスは、影があるようで不思議な雰囲気を纏っていた。
「確かに僕は例のあの人を裏切った。いや見限ったと言った方が正しい」
「それじゃあ、やっぱり」
「でも死んでもいないし、そうなるつもりもない。僕はあなたと生きたい。誰もいない場所で、2人で」
「…私、は」
死んだと思っていたレギュラスブラックが生きていて、且つ一緒に来て欲しいなどと一遍に色んな情報がfirstの頭の中を埋め尽くす。
「一緒に逃げよう」
「そして誰もいない所で2人で暮らしましょう」
「庭でガーデニングを楽しんだり、散歩をしたり」
「ささやかでも幸せなら僕はそれ以上何も望まない」
「僕にはあなたが必要なんです」
しんと静まり返った暗がりにレギュラスブラックの言葉は響いた。真剣なその声にfirstは絆されそうになる。揺らぐ心を、肉体の上からぎゅっと掴んだ。
「レギュラス、私はあの御方を…裏切ることは出来ない」
「……」
「あの御方は裏切りを絶対に許さないし、生きていると分かったらきっとどこまでも追ってくる」
「…そうかもしれません」
「命の危険と常に隣り合わせだというのに、それでもレギュラスは…あなたは」
「僕があなたを守る」
どくんどくんとfirstの全身を巡る血液が主張する。胸元を掴んでいた手は徐々に緩んでいって、firstは一歩また一歩と近付き、その手でレギュラスブラックを掴んだ。
「守って、みせてよ」
レギュラスの弧を描いた唇に胸を高鳴らせて、私は差し出された手に我が手を重ねた。
11.04.24
野村さんリクエスト
レギュラス生存捏造ストーリー