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大きな大きな息を吐く音がした。卒業に沸く生徒でごった返している談話室には不釣り合いなソレに、firstは怪訝そうに眉根を寄せて振り返った。


「シリウス、何その辛気臭い溜め息」
「いや、卒業なんだなって思うと感慨深くってさ」
「まぁ確かに。仕掛け人が卒業できるなんて校長は何を考えているんでしょうね」


シリウスは、そりゃないぜ!と言わんばかりにおどけて見せたがfirstの表情は変わらない。皆が皆沸き立っている訳でもなく、firstのようにナイーヴになる生徒も少なからず居た。特に女子生徒に多いようでリリーエヴァンズもその一人だった。


「まぁまぁfirst。何も一生の別れじゃないんだ。それにイイ話題だってあんだろ?」


そのシリウスの言葉に割って入ってきた第三者。


「それは僕とリリーの結婚式さ!」


その第三者の声に少しばかりfirstの眉間の皺も解消されたように思える。
そこから始まる第三者のマシンガントークにfirstやシリウスはずっと付き合っていた。出会いから今日に至までの馴れ初め。そのほとんどを同じ時を過ごして知っているというのに二人はただただ耳を傾けていた。


「…という訳さ」


第三者の長い長い演説。


「おい、first起きてるか」
「起きてるわよ。ずっとジェームズの言葉に耳を傾けていたのよ」


さすがfirst、リリーの親友なだけあるね!と第三者は感嘆の声を上げた。そして満足したのかまたふらふらと別のソファに座る同級生を見付けると、馴れ初め話を始めた。


「まさかあの2人が結婚するなんてな」
「ほんと、スピード婚よね。最近でしょ?リリーがジェームズに心を開いたの」
「だな。まぁ何だかんだで俺らいつも一緒に居たけどな」
「いつも一緒、ね」


自然と緩む涙腺を咳払いしてごまかそうとするfirstに気付いたのか、シリウスはそっとそんなfirstの肩を抱いた。


「シリウス?」
「だから一生の別れじゃないだろ?無事に魔法省にも就職出来た訳だし」
「それでも…違うわ。同じように朝起きることもご飯を食べることも談笑することも格段に減ってしまうもの」
「ふーん?そういうもんか?」
「そういうもんなの!」


シリウスには分からない。と言わんばかりにぷいとそっぽを向くfirstと思案するシリウス。どうやら男女の考え方の違いが顕著に表れているようだ。


「なら、」
「なによ」


ぐすっと鼻を啜ってからシリウスの方へと顔を向けるfirstに、シリウスはさも当然と言わんばかりに言い放った。ここが談話室だということはきっと彼の頭の中から消え去っていたのだろう。


「俺らも結婚する?」


瞬間、ざわついていた談話室はぴたっと静まり返った。firstの緩んだ涙腺もまるでなかったように元に戻っていて、その双眸をぱちぱちとさせていた。そしてfirstの返事を聞くこともなく一斉に沸き出す談話室。拍手や歓喜の声、はやし立てる指笛、祭りか何かかと勘違いしそうなソレにfirstは置いてきぼりを食らっていた。


「…どうなんだよ」
「え?」
「だから、結婚しようって話」
「…えっと、念の為聞くけど誰と誰が?」


回りくどいfirstの質問にシリウスは嫌な顔ひとつせずに淡々と答える。


「シリウスブラックとfirstfamilyが」


何人の生徒がシリウスに惚れただろう。それぐらいにシリウスはきらきらと輝いていた。そんなシリウスにプロポーズされたfirstは幸せ者だといえよう。シチュエーションを別にすると。


「そ、そういうことは簡単に言わないでシリウス」
「冗談じゃねぇよ」
「冗談とは言ってないじゃない。それにしても…その、時と場所を考えて…」
「嫌なのか?」
「嫌じゃないけど、その、いまいち頭の整理がつかないっていうか」


くしゃっとfirstが自身の柔らかい髪を書き上げた。それを愛おしそうに見詰めるシリウス。


「そしたら一緒に居られるだろ、ずっと」


涙が目の縁いっぱいに並々に満たされ、溢れそうになるのを必死で堪えるfirstをシリウスはそのかたい胸板で抱き締めた。


「それってOKってとっていいよな?」


こくん、と頷いたfirstをシリウスは目一杯抱き締めて応えた。



11.04.19
永久に共に