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「ねえキスしてみせてよ」


鳩が豆鉄砲を食らった顔、って正にこんな感じ。そう思えるほどにレギュラスのどんぐり眼は更に真ん丸く見開かれていて、思わず噴出した。


「……なんて?」


スリザリンの談話室のソファで読書に勤しんでいたレギュラスは、ずれた眼鏡を掛けなおして聞いた。普段していない眼鏡がどこか新鮮でドキドキした。


「だからキスして?」
「…エイプリルフールか何か?」
「残念ながらイースターもエイプリルフールも過ぎてしまったわ」


不思議そうにこちらに視線を送るレギュラスに、笑いが止まらない。レギュラスは観念したように、そっと分厚い本に栞を挟んで閉じた。


「何に影響されてるの、それ。アジェリアサーソン?ユーコマクレガー?シェリスカペル?」


小さく溜息を吐くとレギュラスは私の友人の名前を列挙した。この友人達に共通するものは、最近ボーイフレンドが出来たということ。よくレギュラスに愚痴を零していたがいつもそれは軽くあしらわれていて、きっと覚えていないだろうと思っていただけに意外だ。


「違うわ、シリウスよ」
「…兄さん?」
「シリウス、三階の薬学庫の近くで女の子とキスしてた」
「それで?」
「ううん、それだけ」


レギュラスは、何度も足を組み替えて、テーブルの上の冷え切った紅茶に口付けた。その仕草が妙に色っぽくて思わず視線を絨毯へと移す。


「そういうのってさ、」
「うん」
「好きな奴としたいって思うもんなんじゃないの?」


ちろりと視線が送られてドキリとする。好きな奴とするんじゃないか、という問いにうまく答えられない。


「それにそんな簡単するもん?」
「それは…」
「後悔しないようにさ、そういうの軽々しく言うのはどうかと思うけど」
「レギュラスは私のことが嫌いなの?」
「そんなことは一言も言ってないけど」


騒々しい談話室なのに、それすらも気にならなくて。じっとレギュラスを見つめた。


「して」
「だから」
「レギュラスがいいの」


ポーカーフェイスのレギュラスも、今回ばかりはさすがに耳まで赤くなっている。私も我ながら恥ずかしい台詞を吐いたものだ。


「…後悔、してもしらないから」
「あ…」


ぎゅっと、右手をソファに当てて重心を乗せたかと思うとレギュラスは身を乗り出した。その時、談話室は静寂に包まれたんじゃないかと思うほど私の耳には何の音も入ってこなかった。入らなかった、というのが正しいのかもしれない。ひとつだけ残っているのは、小さなリップノイズだけ。



「僕だって男だから」


さらっと言ってのけるとレギュラスは立ち上がって男子寮の方へと帰っていった。赤い耳たぶが説得力に欠けるが、それに返答する術を私は知らない。




11.4.3
美玲さんリクエスト
レギュラスで甘いの

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