main2 | ナノ




ばったり、そんな効果音が聞こえてきそうなくらいに私と彼は廊下の角で鉢合わせた。彼の漆黒のブラックオニキスは一瞬真ん丸く見開かれたがすぐに何事もなかったように元に戻った。そして何事もなかったように私の脇をすり抜けようとするもんだから、私の手はパシッと歩き去ろうとする彼の手首を掴んだ。こちらからその表情は窺えないがきっと先ほどと同じような顔をしているのだろう。


「何?」


そして私は出来うる限りの澄ました顔で答える。


「何も?」
「……性悪」
「でもシリウスは可愛いって言ってくれるわ」
「蓼食う虫も好き好き(There is no account for tastes.)」
「何よそれ!……悔しい?」
「まさか」


実の妹のように可愛がってくれるシリウスを引き合いに出したが、彼の表情は変わらない。シリウスは私がグリフィンドールに決まった時、本当に嬉しそうに迎え入れてくれた。彼がスリザリンに迎え入れられた時とは反対に。


「じゃあシリウスのこと貰っていい?」
「好きにすれば?あれはもう僕と何の関係もない」


シリウスをあれ、と称されたことに不覚にも眉間に皺が寄る。


「ふーん?ならいらないんだ」
「…もう行くから」
「ほんとにシリウスのこと貰っちゃうよ!返さないから」
「ご自由に」


彼はその言葉を最後に居なくなった。


「何あれ、性悪」


ぽつりと吐き出した言葉は意外にも大きく響き渡る。シリウスみたいに素敵な兄がいるのに執着心を見せない彼がキライ。昔からシリウスの背中を追い掛けるのは私。彼は窓辺で本を読むだけ。私のほうが絶対にシリウスのこと


「first?」
「っひゃ!し、シリウス…にジェームズ」
「入らないのか?」


僕はついでかい?なんて茶化して言うジェームズポッターと先ほどまで話題に出ていたシリウスブラック。


「どした?」
「ううん、何でもない」


悶々と考えているうちに、どうやらグリフィンドール寮の入り口まで無意識に歩いていたようで、ちらりと上を見上げると肖像画の太った淑女が不思議そうな顔をしていた。そりゃ、しばらくぼんやりと肖像画の前で突っ立っていたら変に思うだろう。そして私はジェームズやシリウスに続いて扉を潜る。扉を潜った先にある談話室では、生徒達が様々に各々の時間を過ごしていた。そんな談話室の一角にあるソファには仕掛け人の片割れである、リーマスルーピンやピーターペティグリューが陣取っていた。彼らは、私の前を歩く二人に気付くと手を上げて居場所を示した。もちろん二人もそれに気付き従う。私はというと、自室に戻る気でいたため、足は女子寮の方へと向かっていた。


「first、君もどうかな?」
「リーマス、さん」


呼び止められて、そちらに顔を向けるとソファに腰掛けたシリウスは左に移動して、一人分のスペースを作った。実にスマート。


「ありがとう、少しだけ」


仕掛け人と一緒にお茶だなんて恐れ多い、と零せば仕掛け人達は笑った。本当にいい人達に囲まれて幸せだ。スリザリンの家系なのにグリフィンドールに決まったシリウスと、同じく見初めれらた私はどこか親近感を抱いていた。そしてどこかで彼のことを考えたが、それは杞憂だったようだ。


「もう慣れたか?」
「え?あ、うん。シリウスが同じ寮に居てくれるし…大丈夫」
「そか、ならいいんだ」


君はfirstのお兄さんかい?なんてまたジェームズポッターが茶化したがあながちそれも間違いではないような気がした。


「気になるだろ、firstの兄貴分として」
「ありがと…」


彼のこともそんな風に気に掛けてるの?なんて聞ける筈もなく、私は差し出された紅茶をただただ啜った。相も変わらず、ジェームズポッターは茶化したが、私は嬉しかった。シリウスがそうやって気に掛けてくれていることが。


「なんかあったら俺に言えよ?」
「言ったらどうなるんだい?」
「俺が助けに行く」
「うわーくさい、くさ過ぎるよシリウス」
「うっせ、いんだよ別に」


そんな二人を眺めて、じんわりと目尻が熱くなったのを感じてぎゅっと目を瞑って私は紅茶を飲み干した。



11.3.6
匿名さんリクエスト
シリウス

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -