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それはセレナーデかレクイエムか、それともソナタか。何処となく聞こえて来た音に手を止め、意識をそちらへと向ける。この音を奏でている人物に心当たりはあるが、僕の体は動かない。動こうとしない、その人物に会いたくないというのが本音。しかしその音は止むことがなくむしろ僕を誘うようで薄気味悪くさえ思える。はぁ、と大きな溜め息をひとつ吐き出して止めた手をまた動かして本を捲った。しかし尚も音は止まない。止むどころか全てをフォルテッシッシモで弾いているんじゃないかと思えるぐらいの強く大きな音、スフォルツァントと表現してもいい。そこで確信に繋がる。彼女は僕を呼んでいる。そういうしたたかなところが実にスリザリンらしい。
カツンと革靴を鳴らして立ち上がり、その音の根源に向かう。未だに鳴り止まぬ音に嫌悪すら感じる。ノックなんてものはせずに両手でドアを開け放つ。不作法だと罵られようが知ったこっちゃない。


「…あら」


不機嫌さを醸し出しているつもりだが、彼女はニコニコと此方を見やる。
ドアが開いたと同時に音も止む。相手の思う壺のようでなんだかすっきりしない。


「…静かにして欲しいんですけど」
「あら、こんなサービスめったにしないんだから」


聴いて行きなさいな、と言わんばかりの視線を僕とスツールに向ける。彼女の高慢ちきな所は兄の友人に似通っているような気がする。


「レギュラス?」
「…分かりましたよ」
「ゆっくりして行きなさいな」


口の口角がきゅっと上がって綺麗な笑みを浮かべると彼女の指が滑らかに動き、止んでいた音が再開される。その満足げの表情は昔から変わらない。昔からそうだ。こうして傲慢な彼女に付き合わされるのは決まって僕。兄さんはとっくの昔に、俺あいつ苦手なんだよと一抜けていた。貧乏くじはいつも僕。


「レギュラス?」
「聴いています」
「そう?ならいいけど」


途切れかけた集中が寸での所でつなぎ止められる。彼女は器用だった昔から何事にも。よく兄弟揃って強引に演奏会に参加させられた。もうちょっと抑揚をきかせたら?とかちゃんと譜面読んでるの?なんて指摘しようものなら、その演奏会は大惨事に変わる。理不尽な彼女によって。僕だって、彼女は苦手だ。でも嫌いじゃない。だからこうして文句混じりにも彼女の元に誘われているのだろう。
ぴたっと、止んだ音に彼女へと視線を向けるときらきらとした表情でこちらを見ていた。乾いた拍手と共にスツールから立ち上がり、傍へと向かう。


「どうだった?」
「良かったですよ、上手になりましたね」
「ありがと」


薄がりでも分かるくらいに、彼女の頬は赤くなった。


「レギュラス」
「はい?」
「あなたに聴いてもらえてよかった」


あんなに強引に呼んだくせに白々しい、なんてぼんやりと思っていると僕のスリザリンカラーのネクタイを彼女はこれまた強引に掴んで引き寄せた。


「な、にす…っ」


重なった唇を離すと彼女はまた、綺麗な笑みを浮かべるてこう言った。


「こんなサービスめったにしないんだからね」


と。



11.3.6
匿名さんリクエスト
レギュラス

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