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「シリウス早く起きて!」


バタバタと階段を駆け上がる音が止んだと思えばノックもなしにドアが開いた。未だ覚醒しないぼんやりとした頭。そんな頭をもたげてドアの方を見やれば嬉々とした表情のfirst。彼女は今学期転校して来たアジア生まれの女の子、慎ましやかなヤマトナデシコ?だなんとか噂されてた割に、性格は社交的で明るくざっくばらんで仕掛け人とも早くに打ち解けられていた。それに彼女の英語は流暢だ。そんな流暢な英語が耳元でつんざく。


「ちょっとシリウス聞いているの?」
「…おいfirst…今日は何曜日だ?」
「?日曜日」


念のためと思い質問したがその答えは俺の中にあったものと合致していた。日曜日の朝っぱらから一体何だというのだ。


「とにかく早く起きてシリウス」
「何なんだよ…」
「雪、雪が積もってるのよ!」


キラキラした顔が眩しくて眼を細めた。また眠りの世界に誘われそうになった。雪なんかの何が彼女をこうさせる?


「とりあえず落ち着け」


ちらりとベッドサイドの時計を見れば短針はまだ7にも達していなかった。


「落ち着いてなんていられないわよ!雪よ?雪!」
「んな珍しいもんでもないだろ?もうちょっと寝かせ…」
「初めてなの!こんなに積もってる雪見るの初めてなのよ!」
「………で?」
「シリウスも一緒に来て?」


お願い、とちょこんと首を傾げて頼むもんだから眠気はどこかへといってしまった。


「ねぇ…」
「わーった、分かったからあったかい格好しろ」
「え」
「んで5分後談話室で集合な」
「うんっ!」


とびきりの笑顔を振りまいて彼女は開け放されたままのドアから出ていった。


「…リトルタイフーン、彼女をそう名付けよう」
「なんだよ起きてたのかよ」
「いいや?僕は寝る」
「っな!ジェームズも付き合えよ」
「頑張ってねー」


ひらひらと手を振るジェームズにぐぅの音すら出ない。とにかく今は急がなくては。ベッドから飛び出るとパジャマを脱ぎ捨て、飾り気のないジーンズとトレーナーに着替えた。
そして洗面台に向かい素早く顔を洗い歯を磨く。冷たい水に益々眠気が吹っ飛んだ。
そしてその濡れた手で素早く髪をセットする。余計なことはしない。それが俺のポリシーだ、そうこの間ジェームズに言ったら鼻で笑われた。


「じゃ、行ってくるからな」
「はいはい、いってらっしゃい。朝食食いっぱぐれないようにね」
「取っといてくれよ相棒」


突っかけた靴をこつこつと正しながらジェームズにそう投げかけた。分厚い黒いコートと同じく黒い手袋、そしてグリフィンドールカラーのマフラーを巻き付けてドアノブを捻った。

談話室はまだ誰もおらず、だが暖炉だけはパチパチと燃え盛っていた。


「あ、シリウス…早いね?」
「誰の所為だ誰の」
「ごめんごめん」


firstは深紅のコートに茶色手袋、そして手にはグリフィンドールカラーのマフラーを持って現れた。


「あったかい格好しろよ。しもやけになってもしらないからな」
「そしたらマダムのところへ行くよ」
「そこは俺にあっためてもらうぐらい言えよ」
「ばっか!」


firstは悪態吐きながら俺の腕を掴むと談話室の出入り口に向かった。談話室を出た後に、太った淑女の肖像画を見れば朝っぱらから起こされたことに先程の俺のようにぶつぶつ文句を言っていた。


「で、何がしたいんだ?」
「そうねー…とりあえず雪だるま!」


きらきら光る雪原は元ホグワーツの校庭。だが今はどこを見ても雪で覆われていた。それにしてもスノーマンなんて久しく作っていない。


「じゃあシリウスは下を作ってね」
「りょーかい。じゃあfirstは頭と胴体な」
「?胴体はシリウスでしょ」
「…んん?」


firstに雪だるまもといスノーマンは頭と上半身下半身との三段だということを説明すると、firstは目を白黒させていた。俺からしたら二段方が驚きだ。足がないじゃないか。


「ところでさ」
「んー?」
「何で俺な訳?」


ジェームズだってリーマスだってピーターだっていたのに、何で俺?なんてささやかな疑問が頭の中を埋めた。
ぎゅっぎゅっと雪を踏みしめるfirstの足が一瞬止まる。


「それはね」
「あぁ」


雪玉を丸めながらfirstは言う。大きくなりだした雪玉を転がすのが一苦労なのかその言葉は途切れだ。


「私にも、わかんない」
「?」
「なんかぁ、シリウスのっ…顔が浮かんだからっ!」


よし、出来上がりー、と間延びした声をあげてfirstはまた次の雪玉作成に勤しむ。それはスノーマンの肝心な頭だ。


「?シリウス?出来たのなら顔のパーツ探してきてよー」


ぽかんと突っ立ってるもんだからfirstはやや怪訝そうに眉根を寄せて言った。そしてまた作業を再開させた。


「なぁfirst」
「んー?」
「それって自惚れていい訳?」
「?…いいんじゃない?」


俺がこの後雪玉作りに粉骨砕身したことは言うまでもない。



11.02.22
なぎささんリクエスト
自惚れる(be conceited)が瞬時に分からなかったヒロインちゃん。

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