何なのあの子?、彼女はくすりとそう言いながら現れた。全くだ、と僕は溜息を吐いて同調する。先ほど五月蝿いのと別れたばかりで、少し一人になりたかったがそううまくはいかなかった。
「熱狂的な兄さんのファン、かな」
「幼馴染、でしょ?」
「…まあそうとも言う」
彼女は僕がスリザリンの一年で唯一話が合う人物。他の馬鹿な奴らとは違って、僕の話に付いてこれる存在。他の奴らに話てもロクな回答は得られないだろう。でも彼女は違った、そういう意味では一目置いている。
「そうだ、レギュラスが探していた本あったわよ?」
「ありがとう」
「私の変わりにマダムピンスに返しておいてね」
「分かった」
彼女は抱きかかえていた本の一つを僕に差し出した。それを受け取るときに必然と他の本も見えたが、そのどれもが背表紙の文字すらかすれて読めないほどに古い、所謂古書の類だった。そんなものを借りる一年なんて彼女ぐらいだろう。彼女との会話はそれきりだったが、彼女は別段気にしているそぶりも見せずに僕の隣を歩いている。この近すぎず、遠すぎない距離感が心地よかった。しかし、何か言うべきなのか気の利いた事のひとつやふたつ。最近の魔法省は…いや、最近魔法薬学の…違う、そうひとつひとつ考えて頭を振っていると彼女が口を開いた。
「そういえば、もうすぐクリスマス休暇ね」
「え、あ、あぁ」
「レギュラスはお家へ帰るのでしょう?」
「まあ」
「なら、私も帰ろうかなぁ」
なんで?と言葉に出る前に彼女はこちらを見て笑った。
「なんでって顔してる」
「っ…」
「だってレギュラスがいないとつまらないもの」
「え」
同じ寮の女子生徒とよく一緒に居るところを見かけるし、男子生徒とも談話室で話しているのを見かけたことがある。いつだったか、一人で居ると落ち着くのとも言っていた。別に僕一人が居ようが居まいが何一つ問題はないはずだ。
「レギュラスの前だったら、私は素のままでいられるもの」
「素?」
「そのまんまの私ってこと」
そのままの…と半濁したがその意味はいまいち分からなかった。すると彼女はまたくすくすと笑った。でも嫌じゃなかった。
「来ればいいさ」
「え?」
「僕の家へ遊びに来ればいい」
「あ、そうね…ブラック家のパーティーがあるものね」
別にそういう意味ではないけれど、という訂正は煩わしくてしなかった。
「クリスマス休暇に会える事楽しみにしているわ」
「…うん」
きっと兄さんや幼馴染はクリスマス休暇も学校に残るのだろう。そう考えると気は楽だったが、彼女が家へ来るかもしれないという事実に胸が妙にざわついた。
11.3.6