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パチパチと薪の燃ぜる音としんしんと窓の外に降り積む雪。イギリスでは珍しくもなんともないホワイトクリスマスに、私とシリウスは静かに暖炉の前を陣取るソファに腰掛けていた。ちらりと横に座るシリウスを覗き見ると、そのグレーの瞳に燃える炎の揺らめきが映っていてとても綺麗だった。


「どした?」


シリウスは私の熱視線に気付いたのか顔をこちらに向けた。実に近い距離だったが、それを咎める人物は居ない。静かな談話室。まるで世界に私とシリウスしかいないような感覚にすらなってしまう不思議。


「ううん、幸せだなって」
「ああ幸せだ。firstの作った甘ったるいケーキを鱈腹食べれて本当に幸せだ」


皮肉るシリウスに自然と頬が膨らんだ。


「だって分量が…分かりにくかったんだもん」
「味見した?」
「してない。スポンジの形が変になっちゃうもの」


シリウスは笑いながらわしゃわしゃと私の頭をやや乱雑に撫でた。


「甘さ以外は合格だな」
「次は甘さ控えめにする…」
「そうしてください」


撫でていた手は次第にするんと私の肩口に滑り降りてきて、ぐいと身体を引き寄せられた。為す術もなくシリウスにくっ付く私はまるで磁石のS極とN極のようで、ぴったりとくっ付いていた。恥ずかしい。


「なぁ」
「ん?」
「これ、firstに」


日付が変わってしまう前にと現れた小さな箱。シリウスの手の平に収まるヴェルヴェットの素材で出来た箱を私は知っている。深い深い深紅のヴェルヴェットの箱をシリウスはゆっくりと丁寧に開けた。予想通りのソレに胸がときんと高鳴る。


「シリウス、あの」
「手、出してみ」
「えっ」
「ほら」


ぐいと掴まれた左腕が発汗したように熱い。全部全部シリウスの所為。


「あっ入んねえ」
「え、嘘!」
「うーそ。ほら」


キラリと存在感を放つそれはどこからどうみてもファッションリングのような、手軽なものではなかった。なんでシリウスが私の左手の薬指のサイズを知っているんだとか、この指輪が持つ意味とか聞きたいことは沢山あったけど私はその広いシリウスの胸板に顔を埋めた。こうでもしないと溢れる涙を止められそうになかったから。


「firstからのプレゼントは?」
「へ?…ケーキ…」
「だと思った。でも俺は欲張りだからな、あれじゃ足りない」


確かにケーキだけというのも味気ないかもしれない。他にも用意していればと、埋めた顔そのままに後悔した。


「えっと、今度ホグズミードで…」
「だーめ」
「なんで?」
「今すぐちょうだい」


ふと顔を上げると、シリウスはじっと私を見下ろしていた。駄々っ子のように駄目だと言い張るシリウス。なんだか珍しい。


「今すぐ」
「う、ん」
「今すぐfirstの全部を俺にくれ」


パチパチと薪の燃ぜる音以上にどきどきどきと心臓の音が五月蝿い。身体が熱い。


「シリ、ウス?」
「それが指輪の返事、んでそれが俺にとってのプレゼント」


整ったシリウスの顔が近付いて、私は目を瞑った。目尻から零れた涙がソファに染みを作って、そして唇が重なった。



10.12.25
Happy Christmas.

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