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リリーにはやっぱり百合の花かななんてシリウスと笑いあって作った百合のブーケをあの日リリーから受け取ったのはもう忘れてしまう程前のこと。シリウスは私が受け取ったブーケを驚きながら見て、次は俺らか?なんてはにかみながら言うもんだから妙に期待してしまって頬が熱くなったんだ。
私はその日から事ある事にリリーポッターに百合の花を贈った。正確にはポッター夫妻に。そして産まれてくるであろう愛息ハリーに。
あの頃は何もかもが輝かしくて世界がきらきらしていて、毎日が幸せだった。シリウスと共に過ごした日々はホグワーツを卒業してからも続いて、ああ永遠にこんな日が続くのも悪くないな。でもどこかで区切りをつけてささやかな式でいいからみんなから祝福されたいなんてことも思ってもみたりした。
本当にそれぐらい世界が美しく感じられて、愛息ハリーの一歳の誕生日は我が子のように喜んだ。
小さくすり潰したかぼちゃのプリンはまだ幼い乳児でも食べれるように何日も前から試行錯誤して作った。納得のいくものが出来上がったのは3日前。今度のハロウィンの日もプリンを作って行こうと私は意気込んでいた。シリウスはハリーが喜ぶような悪戯グッズをリビングで作っていた。まだ悪戯なんて早いし、悪い子になるんじゃないかなんて心配になって止めようとしたがシリウスはジェームズの子なんだからいいんだよと私の言葉を一蹴した。リリーの子でもあるんですけど、とは言わなかった。シリウスが鼻歌混じりに作業していたから。


「明日楽しみだね」


秋風が冬のものになりつつある10月30日のことだった。
その翌日のことは覚えていない。思い出すこともしない。最愛のリリーポッター、ジェームズポッター、それにシリウスブラックに友人のピーターペティグリュー。時間を巻き戻せるならもう一度30日からやり直させて神様って何度何度も祈った。4人が戻って来ることはなかった。ハリーもマグルの叔母夫婦に引き取られることになってしまって、手元に残ったのはかぼちゃのプリンとガランとした家のみ。
でももう今はなんとも感じない。もうあれから長い長い時が過ぎているのだから。そんなにも長い月日が経つのに未だ独り身なのはまだ過去を断ち切れていない証拠かもしれない。

今日もまたゴドリックの谷に向かい、真っ直ぐに教会の裏の墓地に向かった。ポッター夫妻の家には行かない。
石像は一度だけ拝見した。街は雪化粧を施して辺りを白く塗り替えていく。天国の2人は私の片手にある季節外れの百合の花束に笑うかも知れない。百合にこだわる必要はないと、でも私はきっとこれからも百合の花束を片手にこの墓地に来るだろう。誰1人として足跡のない墓地。毎年そうだ私の百合の花束だけがぽつんと雪の上に鎮座する。毎年決まってそうだというのに、今年は違うようで思わず歩みが止まる。


「リーマス来てたの…?」


ゆっくりと歩み寄って、白い大理石の墓石の前にある雪が被ってしまった花束を見る。私はそっとしゃがみ込みその雪をそっと取り除く。きっとだいぶ前に来たのだろう、雪がそれを物語っていた。


「来るなら言ってくれたら良かったのに。そしたら私も同じように…」


雪を取り除く手が止まった。寒さで悴んだからではない。墓前に横たわる花束の花が百合だったから。


「…シリ、ウス」


じんと胸が熱くなるような、涙が出そうになる気持ちを振り払った。シリウスの筈がない。何故ならシリウスは今アズカバンに居るのだから、墓参りになんて来れる筈がない。リーマスか、はたまた質の悪い悪戯か。私はさっと同じように百合の花束を墓前に捧げて祈った。雪が音を消してくれる為、どれぐらい長くいたかは分からない。無音の世界、深々と雪だけが降り積む。暗くなっていった辺りに身を震わせてから立ち上がった。祈りの中のリリーやジェームズはあの頃の幸せそのもので、体は冷たかったが心は温かかった。


「それじゃあそろそろ行くね?また、来るから」


頭に積もった雪とコートに乗った雪を払って立ち上がった。そしてそのまま墓地の入り口まで行き少し街を歩いた。暗くなってしまった街にぼんやりと温かいランプがあちらこちらに灯る。パブで飲んで帰ることも考えたが、寂しさが込み上げてきそうで私は早足に歩いてパブの裏手の軒先で姿くらましした。
だから私は気付かなかったんだ。張り出され始めたあの人の手配書に。



10.10.31
どうか安らかに

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