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「はぁ」


もう何度目か数えることも億劫で、同じような長い廊下に僕は翻弄されていた。
認めたくはないが道に迷ったようだ。
何人か生徒とすれ違ったがプライドが邪魔をして話し掛けなど出来やしなかった。


「父上…母上…」


ポツンと出たその言葉は広い静かな廊下に溶け込んでいった。途端心細さが襲ってきて、歩くスピードはがくんと遅くなった、そんな気がした。


「そもそも…そもそもこんな城を設計したやつが悪い!」
「そうかな?ゴドリックやヘルガ、ロウェナ、サラザールが創設したこんなにも魅力的でチャーミングな学校他にないと思うよ?」
「うわあっ!」


足音も無ければ気配もない。なのに突如現れたなまえに心臓が飛び跳ねた。古ぼけた羊皮紙を片手に現れたなまえ。見上げると自然とかち合う視線にばつが悪くわざと逸らして、僕は目の前のだだっ広い廊下を歩き出した。


「ねえドラコ」
「…」
「構わない方がいいのかな?」
「…」
「でも、これだけは聞いて欲しい。そっちに行くとグリフィンドール塔だよ?」


その言葉にピタッと足は止まり、くるりとなまえを見ればいつもと変わらないニコニコ顔。プライドがないのかこいつには。「さ、ドラコ帰ろう?もう消灯だ、急がないと…」


なまえの言葉が終わらない内に廊下の明かりはふっと消え、薄暗い闇に包まれた。なまえは驚くこともなくすぐさまさっと杖を取り出し僕もそれに続いた。そして、ついこの間習ったばかりの呪文を唱えた。ぽぅっと灯った光に少し安堵した。


「ドラコは呑み込みが早いなぁ、筋がいい」
「う、うるさい」
「さ、行こうかフィルチに見つかったら面倒なことになる」


ちらっと先を行くなまえの手にはさっきの古ぼけた羊皮紙。よく見えなかったがその地図のようなものを見ながら複雑な校内を歩く。
なんだこいつも地図がないとダメなのか、そう思うと自然と笑いが零れた。
意外にもなまえはそれ以上何も僕に話しかけることなく、僕はただただ黙ってなまえの背中を追った。

しばらくして帰ってきたスリザリンの談話室は何時にも増してひんやりとしていて、生徒は皆部屋に戻っていた。何時もなら煌々と炎が燃える暖炉も今は沈静を保っている。


「それじゃあおやすみ、それと…ごめん。無神経過ぎたね」


そのまま僕の方を一度も見ずになまえは女子寮の方へと歩き出した。心臓の辺りがもやもやして、何か言いたいのにその何かが分からなくて喉に突っかかったまま、僕は突っ立ったままなまえを見送った。


「…っくそ!」


談話室のソファに無造作に転がるクッションに苛立ちをぶつけると、もうもうと埃が舞った。そして気が抜けたようにずるずるとしゃがみ込んでひとつ溜息。


「僕はどうすればいいんだ」


その言葉に返事はない。



10.4.3

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