言っていた通り、なまえはケロリとした表情で翌朝の大広間に現れた。スリザリンからは勿論、レイブンクローや
ハッフルパフからも声を掛けらていてやはり不思議な奴だとつくづく思う反面ちらりと昨日のことが頭をよぎっ
て、僕はかぼちゃジュースを一息で飲んだ。空になったタンブラーを見つめる顔が火照ったようにぼんやりと熱
い。
「やあドラコ、おはよう」
かたんと僕の斜め向かいに座ったなまえはいつもと何一つ変わらずに話し掛けてきた。気にしているのは僕だけな
のかもしれない。
「もう…平気なのか?」
「お陰様で、昨日ドラコがお見舞いに来てくれたからかな?」
冗談なのかケロッと言い放つなまえのその言葉に、また顔に熱が帯びた。
僕はいたたまれなくなって何も言わずにガタンと席を立った。クラッブやゴイルも僕に続こうとしたが、右手で
制して大広間を出た。
10月のひんやりとした空気がちょうど気持ちいい。
「はぁ」
先日のなまえの意外な一面に遭遇して以来僕は僕でないような、いまいち本調子に欠けていた。すぐ後ろにパンジ
ーパーキンソンが駆けてきていたことにも気が付かなかった。
「おはようドラコ」
「…なんだ?」
「ハロウィンパーティーのことなんだけれど」
「そのことならこの間聞いた、もう飽き飽きだ」
「ちょっとドラコォ!」
パンジーパーキンソンの声に耳も傾けずに革靴をかつんと鳴らして、ひんやりとした廊下を歩き出した。かつん
かつんと音がするに連れてパンジーパーキンソンの声が遠くになっていく。途端、踏み出した足がずるっと力が
入らなくなって僕はそのまま崩れ落ちた。同時にぼんやりしていてその後のことはよく覚えていない。僕の額に
誰かの手が重なったことはかすかに覚えている。
それからいつぐらい経っただろうか、目を開けるとそこは昨日見た場所。見慣れたスリザリンの自室ではない。
「…医務室か…」
かすれた声が出て、あぁ風邪をひいたのか…と思った。
「そうだよドラコ、キミは風邪をひいて運ばれたんだ。パンジーが気付いてくれて良かった」
「そうよ!ドラコが倒れてびっくりしたわ。でも私すぐになまえ御姉様を呼びに行ったの」
「私の風邪が伝染ってしまったのかもしれないな…すまないドラコ」
パンジーパーキンソンは機転を利かせて僕の額に乗ったタオルを取ると、交換しにカーテンの向こうにいなくな
った。
「…お前の」
「ん?」
「お前の所為…なんだからな」
「うん…そうだね、私の所為だ。ナルシッサ叔母様やルシウス叔父様に会わす顔がない」
本当にすまない。頭を垂れたそのなまえの姿を見て、また僕はぼんやりとした思考回路の中葛藤した。
「いつも…、僕が悪いのに…謝るのは決まってなまえだ」
「え?」
「なまえはずるい」
なまえは僕の言葉に最初困惑した表情だったが、次第に僕の言おうとしていることを察したのかクスクスと笑った
。
「笑うな」
「ごめんごめん、キミがあまりにも昔の私に似ていてつい…」
「似てない」
「いいや似てるよ、ドラコは昔の私に似ている」
なまえはぼんやりとその昔、を思い出しているようだった。
「私がホグワーツに入学した頃、私は家の事もあってかスリザリン以外毛嫌いしているところがあって、他の寮
生とは一切関わることがなかったんだ」
「え?」
「でもある先輩に出会ったことは私に絶大な変化をもたらした。その先輩はグリフィンドール生で今思うと沢山
迷惑を掛けたと思ってる」
「なまえが?」
「私だってずっとおんなじじゃないんだ。昔は本当にスリザリン生の象徴のような生徒だったんだ」
「まさか!」
だから私はドラコにとっていい影響を与えられる先輩になりたい。私と先輩がそうであったよいに、私と出会っ
たことでドラコに変化をもたらすことが出来たら…そう思っているよ?これは私のエゴだ。
「やっぱり僕はあなたにはかなわない」
「え?」
「なまえは…大人で、僕をどんどん突き放す。追い付く頃にはきっとなまえは僕のことなんて忘れてしまう」
ぽつりと思いのままに呟いた言葉はなまえの耳にも入ったようだ。
「ドラコ、気に病む必要は何一つない。キミはまだこれからなんだから。学ぶこと出会うこともまだまだ沢山」
「でも僕は…!」
なまえはそれ以上僕に何も言わせなかった。なまえの人差し指が僕の唇に触れて言葉を遮ったからだ。
「大丈夫、ドラコが大人になるまで私は待っているよ?」
だから安心して?
そして僕のオールバックを優しく撫でると、なまえは僕の額に唇を落とした。
10.4.26
fin.