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充実した、と実感出来る毎日に満足していた。今日も無事授業が終わり、談話室に向かっていた時出会った。


「お、なまえ」
「あっシリウス、ごめんなさい急いでいるの」
「あ、あぁ…」


廊下で鉢合わせたというのに、なまえはそそくさと行ってしまった。蒼白したように見えた顔が少し気になった。


「シリウス振られたかー?」
「うるせー」


ジェームズをこつっと小突いた。くるっと振り返るがそこになまえはもういない。疑問符が残るが俺はそのまま部屋に戻った。


「あっリリー」
「おい、ジェームズ。覗きに地図を使うなよ」
「覗きとは心外だな!名前とどこにいるかぐらいしか分からないのに」


ジェームズは部屋に帰ってくるなりベッドに横たわって、忍びの地図に明け暮れた。


「ったく」
「あー!リリーがスラグホーンの部屋にぃ」
「誘われたんだろ?あのなんとかいう会に」
「あのでっぷりしたセイウチめ!僕のリリーを」
「いつからジェームズのになったんだよ」


カリカリ響く音が止まったかと思うとリーマスが渇を入れた。


「2人も宿題しなよ」


またカリカリが始まった。ピーターもそれに続く。4人揃って、珍しくレポートを進めた。しばらくして夕食の時間も近付き、ジェームズが伸びをし皆で大広間に行こうと提案した。率先して出て行くジェームズとピーター、リーマスに先に行くように言い本を軽く片した。ベッドの上に放りっぱなしの忍びの地図に溜め息が出た。


「ったくジェームズの奴。悪戯かんり…」


悪戯完了!そう呟こうと思った時になまえみょうじの名前に目が付いた。殆どの生徒が大広間に集結しつつある今、なまえの名前がある場所は閑散としていた。中庭なんて寒い場所で何やってんだと、俺は無我夢中で走り始めた。


「何やってんだっ!」
「シリ、ウス」
「な、泣くなよ」


くしゃくしゃのハンカチをポケットから取り出しなまえに渡した。ちらちらと雪が降り始める。


「で、時計を探してるんだな?」
「うん…」


なまえに事の経緯を聞いた。そして、アクシオなまえの時計、と杖を掲げて声を上げるも、何も起こらない。

「何故?」
「わからないの」
「俺も探す!中庭でいいのか?」
「ううん、シリウスは夕食に行って!」
「なまえが困ってるのにほっとけるかよ!」


2人して中庭にうっすら積もる新雪に足跡を付けた。悴んだ手に息を吐きかける。何故呪文が効かない?俺がなまえの時計をイメージ仕切れていないからか?なら持ち主のなまえがやっても駄目なのは何故だ?


「なあ、なまえもう一回やってくんねぇ?」
「うん…」


おずおずと杖を差し出して、アクシオと唱えた。が、依然として何も起こらない。ザクザク音を鳴らしてなまえに近付いた。なまえの手も頬も完熟の林檎のように真っ赤だった。


「なまえ、違ったらごめん。じっとしてて」
「え?えぇ?!シリウスっ…」


なまえのローブのポケットを拝借して、手を突っ込んだ。カサカサとお菓子の包み紙の感触以外にひんやりとした鎖に指が触れ、俺は戸惑いもせずに掴んだ。


「あ」


俺の掌に収まるぐらいの小ぶりな銀の懐中時計は冷たくて、だけどなまえの顔を輝かせるには十分だった。


「シリウス…ありがとうっ!」
「あ、あ、あぁ」

時計が見つかった事より、感極まって抱き付いてきたなまえに動揺して頭が回らなかった。


「身に付けていたから呼び寄せ呪文が効かなかったんだね」
「あ、あぁ」
「あっ、ごめんなさい」


パッとなまえの温もりが離れた。寒い北風が体の隙間をすり抜けて背筋が伸びた。


「とにかく大広間に行こう!」
「うん」


ぼんやりと火が灯る廊下を2人して駆け抜けた。



09.11.16
(09.11.18up)
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