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「シリウス、リリーじゃなくてクリスだったじゃない」


ぷくっと頬を膨らましてなまえは談話室に戻ってきた俺に言った。ドキリとしたが口調も表現も怒っている風ではなかった。エヴァンズが用事というのは出任せだが、結果オーライな気もした。


「悪かった」
「ううん、いいの」
「クリスがスコーンを焼いてくれたの」
「良かったじゃないか」


なまえがいうクリスは生憎俺の頭の中には思い浮かんで来なかったが、そのクリスに感謝した。


「シリウスも食べる?」
「え?」
「スコーン嫌い?」
「いや」


なまえはスコーンを袋から出すと、ゆっくりと2つぶんに割った。甘い香りが鼻を擽った。


「あ、紅茶を用意するから待ってて」


談話室でも比較的端の落ち着いたソファに腰掛けた。


「シリウスミルクと砂糖は?」
「いや、ストレートでいい」
「そう?はい、どうぞ」
「ありがとう」


ぽかぽかと湯気が立ち上る紅茶のカップを受け取った。
なまえとこうしてお茶を共にするのは初めてだ。

「なまえ…あの」
「ん?」
「さっきはごめんな」


なまえはふんわりと微笑んだ。温室での出来事は確かに胸に引っかかったが、気にしない振りをした。


「淹れるの上手いな」
「え?」
「紅茶」
「ありがとう」


カップとソーサーがかち合ってカチャリと音がした。


「あ、あのさ」
「ん?」
「レギュラスとは」
「え?」
「レギュラスとは…」


どういった関係?と、聞きたいのにその先が出てこなくて四苦八苦してるとなまえが笑った。


「さっきたまたま温室で会ったの」
「え」
「たまたま、だから何も…」
「そうか、いやそうならいいんだ!」


残りのスコーンを口に詰め込んで紅茶で流し込んだ。


「ご、ちそうさま」
「うん、もういいの?」
「あぁ、さんきゅーな」


そのまま男子寮に向かった。足取りが軽くて自分の足じゃないようにも感じた。



09.11.03
(09.11.15up)
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