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「あれ?シリウスさっきなまえと温室にいなかった?」


事の発端はピーターのこの言葉。ちなみに俺はずっと談話室でジェームズとチェスに洒落込んでいた。耳を疑ったし、思わず勢いよく立ち上がってチェスボードが揺れた。配置がバラバラになった駒のブーイングなんて気にならない。


「シリウス?ちょっとどこに行く…」
「ピーター!その情報はマジなんだろうな」
「う、うん…男の子といたみたい」


おどおど話すピーターの話しを最後まで聞かずに飛び出した。廊下ですれ違う様々な生徒が気さくに話し掛けてきたが、それどころじゃなかった。俺の気持ちの荒れ模様とは違い、外のピーカンの空に舌打ちした。

温室は色々の薬草が植わっている。取り扱いが面倒なマンドレイクの鉢が沢山あった。そんな中見つけた2つの頭。


「なまえっ」
「えっ?!」


俺の声に振り返ったその顔はどちらも見知ったものだった…。


「っレギュラス…」
「兄さん…お久しぶりです」


律儀に頭を下げたそいつは血を分けた兄弟だが、今日という日はその事実さえも呪った。強く結んだ唇、かち合った奥歯がぎりりと音を立てた。

「何で2人がここに?」


平然を装い尋ねる。そもそもこの2人に接点はあるのか?いや、接点もないのに並んで温室に籠もったりはしないだろう。


「私が薬草の様子を見に来たら出会ったの」
「知り合い…なのか?」
「え?うん。シリウスはどうしたの?」
「おっ俺か?!」


確かにこんな場所用事でもなければ来ないだろう。突然の質問に怯んだ。


「あの…エヴァンズが、エヴァンズがなまえを探してたんだ」
「リリーが?本当に?」


なまえはパタパタとスカートを叩くと、レギュラスにはごめんなさいと俺にはありがとうと告げるとなまえは温室を飛び出した。
残された俺とレギュラスは何も話さず、静かな空間にマンドレイクが身震いした為に葉がガサガサと立てる音以外は何もしなかった。


「…必死ですね」
「は」
「なまえ先輩に必死なんですね」
「なっ」
「別に僕はどうこうするつもりはありませんよ」


失礼します。レギュラスは言い捨てるとすたすたと温室を出て行った。
強く結んだ唇は、気が付かない内に噛んでしまっていたのか鉄の味が口に広がった。


09.10.25
(09.11.14up)
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