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談話室でリリーやなまえが一個上の先輩たちと話しているのをたまたま。たまたま聞いたのだ。断じて聞き耳を立てていた訳じゃない。


「私?私はやっぱり優しい人が好きです」


どんな男性が好みなの?とよくやり取りされるその質問になまえはさらっと答えを出した。
優しい人、がなまえは好きなのか。かく言う俺もなまえに惹かれていて好意を抱いていた。それは認める。だからといってこの状況はなんだ。


「あっなまえが来たよ!」
「だからなんでお前がいんだよジェームズ」
「だってあんな相談されたらねぇ」


優しい人ってどういうのなんだろうな。俺は確かにジェームズにそう言った。だが、なまえの名前など出てはいない。なのに何故?するとジェームズはさも当然と言わんばかりに自分の頭に手をやり、気障ったらしく発言した。


「君がなまえが好きなのぐらいお見通しだよ」
「え」
「あらかたなまえが優しい男がタイプとか言ってたのを聞いたんだろう?」
「…ジェームズ」
「ん?」
「お前ってエスパー?」

ジェームズはそれには答えずにニヤニヤした顔を見せたかと思うと、俺の背を思い切り押した。いや突き飛ばした、が正しいかもしれない。


「おわっちょっちょっ…」
「わっ!」


前のめりになり転げそうになるのを抑えて立ち直ったら、目の前には噂の張本人が立っていた。


「よ、よぅなまえ」
「シリウスこんばんは、いきなりどうしたの?」
「い、いや?それよか重そうだな持ってやろうか?」


この時間なまえが図書館に向かうのをジェームズはどこから知ったのか俺に知らせて、事に至ったのだ。


「ううん、いいよ」
「いや、持ってやるよ」
「いいよ、だって図書館そこだもん」
「あ」


くるりとなまえの視線の先を追うと、すぐ後ろに大きな図書館の扉が設えられてあった。物陰で成り行きを見ているジェームズは面白そうに口を開け、声を押し殺して笑っている。


「あんにゃろう…」
「え?」
「あ、いや…そうか、分かった。なんかあったら俺に言えよ」
「ありがとうシリウス」


パタパタと図書館に向かうなまえを見送ってから俺は物陰に飛び込んでジェームズの鼻っ面に杖を突き付けた。

「ちょっちょっとタンマシリウス!」
「うるせぇ!」
「いや、そう、違うんだ。タイミングが悪かったんだよ!」
「お前がこの場所を選んだんだろっ」
「たまたまだ、そうたまたま。ささっ次の作戦に移ろうじゃないか」


馬乗りの俺からスルリと抜けると、ズボンの埃をぱんぱんと叩きつジェームズは手を差し出した。


「それにシリウス、僕は親友の幸せを心から応援してるんだよ?」
「ジェームズ…悪い」
「いや分かってくれたらいいんだ」


談話室に戻る為、肩を並べて歩いた。俺はこの時、ジェームズが薄気味悪い笑みを浮かべたのを見事に見逃していた。



09.10.22
(09.11.14up)
ジェームズは役者だと思う。
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