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入学してから2ヶ月を優に過ぎた。無事に楽しいハロウィンも終わり、待ちに待ったクィディッチの対抗戦が始まった。
勿論、俺達は観戦で防寒対策を万全に施してから競技場に向かった。


「絶対僕の方が上手いよ。シリウス、僕を推薦してくれないかい?」
「ジェームズがなれるなら俺もなれるな、ポジションはビーターがいいな」
「僕はシーカーだ、いいコンビになりそうじゃないか」


戯れ言だと笑われるかもしれないが、その時は本当にワクワクしたし、まさか数年後にこの発言が実現するとは誰も予想だにしなかった。
今日の試合はグリフィンドール対スリザリン。敵対している寮だけに応援にも力が入る。
赤で埋め尽くされた観客席の反対は緑で埋め尽くされていて競技場内はすごい熱気だった。


「凄いね、グリフィンドール負けないよね?」
「当たり前だろうが」


弱気な発言をするピーターに渇を入れてから上空を見上げた。
今日の試合はどちらも得点を許さず、勝利の鍵はシーカーが握っていた。


「あぁ!そこじゃない!馬鹿!後ろだ!」
「ジェームズうるせぇ!」
「だってシリウス見てみろ!ほら、スニッチはあそこだ」


ジェームズが指差したところは両チームのシーカーがいる場所とは真逆のところだった。
しかしそこには確かに金に光る何かが忙しなく動いていた。


「スニッチは後ろだ!」


ジェームズが声を上げた時と、ちょうど2人のシーカーがスニッチに気付いたのは同時だった。
グリフィンドールのシーカーを妨害してくる相手のスリザリン。それを守るグリフィンドールのチームメイト。
攻防戦を繰り広げていたが、見事にグリフィンドールのシーカーはチームメイトのおかげでスニッチに近付く事が出来た。
そんなチーム戦が功を制したのかスニッチは綺麗にグリフィンドールのシーカーの掌に収まった。
個人プレーが目立つスリザリンよりも連携プレーのグリフィンドールの方が1枚上手だったのだ。


「ジェームズ、お前って案外目がいいんだな」
「一言余計だよ。眼鏡だからって侮らないで欲しいな」
「言うじゃん」
「まあね」


そんな今日はグリフィンドールの祝勝会だった。年が明けたら次の試合はハッフルパフ戦。それまでのしばしの休戦にみんな酔いしれた。


「うまいっ!」


ジェームズは上級生の輪に入ってバタービールに舌鼓を打ちクィディッチ談義に花を咲かせていた。
俺は少し遠巻きにそれを見ていた。人に囲まれるのは少し苦手だ。


「ねえ、どうしてこんなところにいるの?」
「なまえ…」
「みんなのところに行かないの?」
「あぁ、ちょっと疲れた」
「ふふっ、私も」


なまえはバタービールのタンブラーを持ったままひょっこりと現れた。


「シリウスも飲む?」
「え、」
「バタービール飲んだ?」
「いや飲んでない」


正確には飲んだことはない。
はい、と差し出されたタンブラーを受け取ったがどうすればいいか分からない。


「飲みかけでごめんね、でも2口ぐらいしか飲んでないから!」


ニコッと笑うなまえ。
今まで経験したことのないドキドキが胸を支配した。
おずおずとタンブラーを口に運び1口含むとそれは甘く、それなのにしつこくなく始めて飲んだ温かいバタービールに感動した。


「今日グリフィンドール勝てて良かったね、私最後すごくはらはらしたよー」
「確かにスリザリンとの接戦だったからな」
「シリウスは飛行術上手いの?」
「さあ」
「さあって自分のことなのに分からないの?」
「自分で上手いっていう奴いるか?」


それもそうか、となまえは頷いていた。
その時意気揚々とクィディッチを語るジェームズを思い出したが、俺は頭を振った。


「シリウスも頑張ったら選手になれるかも」
「そうかな」
「うんきっとそう、頑張ってねシリウス」


なまえはそれだけ言うと話もそこそこに先に部屋に帰って行ってしまった。
去って行ったなまえを見送った後、またくぴっとバタービールを口に含んだ。
体の芯からぽかぽか温まって、今日は何だかいい夢が見れそうな気がした。



09.09.21
(09.09.26up)
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