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ホグワーツの生活は実に快適だった。
煩い両親も兄弟もしもべ妖精も居なくて本当に全てが自由だった。
今までの俺はブラック家という籠の中の鳥であったことを痛感した。
自然と同い年の友人も増えたし、年上の友人も増えた。
本当に全てが充実していた。


「あぁーいいなー」
「しょうがないじゃないか、僕らはまだ一年なんだから」
「そうだけどさーああやって楽しそうにされるとさー」


読んでいた本から目を上げ、ジェームズとリーマスの話の種を見た。
先程まで少なかった談話室は見事に人で溢れていた。


「なんだ?」
「上級生がホグズミードから帰ってきたのさ」
「ふーん」


ジェームズは悔しいのか羨ましいのかツンケンしながら言ってのけた。
確かに上級生達は色々なカラフルな紙袋を抱えていて、紙袋から溢れんばかりのこれまたカラフルなお菓子が見受けられる。


「僕も早く行きたいよ」
「あと二年は辛抱だな」
「ゾンコっていう悪戯専門店があるんだよ?シリウスは行ってみたいと思わないのかい?」
「そりゃ行ってみたいけど」


どっか校内に抜け道とかないかなぁ、などと夢見がちなことを唱えるジェームズからまた本に目を移した。


「シリウス!」
「なんだ…よ、ってなまえ?」
「ただいま」
「よ、よぅ」


他の奴らと同じようになまえも沢山のカラフルな紙袋を抱えていた。


「これ、お土産なの」
「あ、あぁサンキュ」
「みんなで食べてね」
「みんな?」
「いつも一緒にいるお友達よ」
「…あぁ」


チラリと後ろを見れば3人は見事に姿を消していた。
溜め息が出そうになるのをこらえてなまえから紙袋を受け取った。


「シリウス難しそうな本読んでるのね」
「三年のくせにそういうこと言うか?」
「そうかな?でもシリウス大人っぽいし、どんどん先越されちゃうかもしれないね」
「身長が?」


ニヤリと聞けば、なまえはそれもあるけどと膨れて言った。


「それでホグズミードはどうだったんだ?」
「あ、うん、えっとね」


なまえが本当に嬉しそうに、楽しそうに話すから俺は聞き入った。
おかげで俺はジェームズのことを言えないぐらいにホグズミードへの関心が高まった。


「いつか一緒に行けたらいいね」
「あと二年は掛かるな」
「じゃあ二年後一緒に行こう」


ふとあと二年後とやらを考えて見たが想像のなまえはちっとも変わっていなかった。
それが可笑しくて笑ってしまったところ、なまえは何よぅと照れたようにまた頬を膨らませた。


「そういえばさ、」
「おいみょうじ!今からさっき買った悪戯グッズを披露するんだけど来ないか?」
「え?あ、うん!」


談話室の入り口付近から投げかけられたその声に会話は中断される。
凄く体の内側がもやもやして気持ちが悪い。


「シリウスも行く?悪戯グッズだって」
「いや、いい」
「そう?ごめんね、ちょっと行ってくるね」


本当にごめんね、すまなさそうに言うなまえを見送った。
今の奴誰?なんて聞けるはずもなければ聞く権利もなくて。
気になるのに聞けない。
もやもやは増えるばかりだ。



09.09.21
(09.09.26up)
シリウスはまだきっと恋ってものを知らないと思う。
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