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ジェームズの大きな笑い声とリーマスやピーターのくすくす声は部屋をいっぱいにした。


「そんなに笑うなよ」
「だってキミ!くっ…まさか年上だっただなんてね」
「しょうがねぇだろ小さかったんだから」
「小さっ…!もう駄目だっ」


ジェームズの馬鹿笑いはまた一段と大きくなった。
ジェームズはこの後見事に誰よりも早くなまえのお近付きになることとなる。


「でも見つかって良かったじゃない」
「年上だけどな」
「それでもグリフィンドールな訳だし」
「まあ…」


ジェームズとは対照的にリーマスは朗らかにそう言った。確かに同じ寮であったのは1つの救いでもある。
まだ笑っているジェームズを放って俺は部屋を出た。
ピーターのどこ行くの?という言葉に、散歩とだけ伝えた。

今までの文献で知るホグワーツと実際に見るホグワーツは天と地ほどの違いがあった。
まだ入学して間もないというのもあるがまだ土地勘には慣れていなかった。散歩も兼ねて夕食まで探索することにした。
気になるドアは片っ端から開けていった。そのほとんどの部屋が埃を被っていた。


「こう広いと地図があった方がいいな」


卒業までに完成すれば、とこの時の俺はぼんやりと考えていた。


「何の地図?」


図書館近くに差し掛かった時、ふいに声を掛けられた。
柄にもなくびっくりした。


「な、なまえ…」
「さっき振りだね」


にっこり笑ったなまえの腕にはダイアゴン横丁で見た時のような本が2冊挟まれていた。
なまえは今から図書館に返しに行くのシリウスも来る?と話し掛けてきた。特に断る理由もないし、図書館を一度ゆっくり見てみたかったらのでなまえについて歩いた。


「さっきはごめんね」
「何が?」
「私シリウスに自分のこともっと早く伝えていれば…」
「いや、違う俺が勝手になまえが新入生だって勘違いしてたから」


逆に私はシリウスが新入生だってことにあの時びっくりしたんだよ、なまえは少し恥ずかしそうにそう言うと図書館の扉を押した。
組み分けの儀式の後に監督生に付いて図書館を見に来たときは、ロクに見れなかったが図書館自体もかなり広く古書特有の匂いがした。
なまえは手早くマダムに本を返すと、俺のところに戻ってきた。


「シリウスは自分の好きなところを見に行くといいよ」
「なまえは?」
「私はいつものとこ」


いつものとこ、それはきっと鉱石についての書籍が並んでいるところなのだろう。


「俺も付いて行っていいか?」
「うん」


こっちなの、なまえはそれだけを言うと図書館をずんずん進んで行った。
付いて行く間も棚を見ていくがホグワーツの図書館の蔵書量は本当に多く豊富だった。
図書館の端にある禁書のコーナー近くでなまえは止まった。
ほとんどの生徒は近付かないようで、一段と匂いが強い気がした。


「いつもここへ?」
「たまに他のコーナーにもいくよ?」
「例えば?」
「んーファンタジー小説とか」


そういうところは女の子っぽいんだな、と思ったが口には出さない。
その間もなまえの手は忙しなく動き棚の本を物色している。
俺もそれにならって棚の本を取ってみる。
ダイアゴン横町でなまえが見せてくれた物と似ていた。
同じように見つけた青いラピスラズリの鉱石をそっと指の腹で撫でた。


「シリウス」
「ん?」


ぱたっと本を閉じ、なまえを見た。するとなまえは俺の方をじっと見詰めていた。少し心臓がドキリとした。
あまりじっと見たことはなかったが、やはりなまえは童顔で背も俺より低かった。


「何…」
「シリウス、お願い」
「え?」
「あの本取って欲しいの」


なまえが指差す先の本は到底取れそうになく、脚立がいるくらいだった。
だがそれは俺にとっては造作もなく、快諾した。


「ほら、これか?」
「ありがとう」


気になっていたの、シリウスと来て良かった。
なまえのその言葉にまたドキリとした。
その後俺自身も先程手に取った本をなまえに習って借りた。


「シリウス、ありがとうね助かったよ」
「あんなのどうってことないさ」
「ふふっ、じゃあ私この本を置いてから夕食に行くわ」


俺はたった1冊だったし、そのまま大広間に向かおうとなまえを見送った。


「こうしてると年上って感じしないのな」


俺の独り言はだだっ広い廊下に溶けた。



09.09.20
(09.09.24up)
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