大きなその扉をくぐるとそこは広い大広間で、夥しい数の装飾に目が眩んだ。
だが、胃が重い方が勝っていた。
ブラック家は代々スリザリン。幼少から植え付けられたその純血主義には吐き気がする。
俺は嫌だ。嫌だ。嫌だ。
スリザリンは嫌だ。
「シリウス大丈夫かい?」
「あ、あぁジェームズこそ」
「僕は違う意味でドキドキしてるよ」
ほら、とジェームズがやる視線の先には艶やかな赤い髪が見えた。
もう既に何人かは呼ばれて組み分けの儀式を行っている。
「あっシリウス見てよ!あの子リリーって言うんだ…」
そのリリーは丁度名前を呼ばれ壇上に上がりスツールに腰掛け、小汚い帽子を被った。
ジェームズはぽぅっとした表情で見つめている。
「グリフィンドールかぁ…僕と一緒だね」
「何でまだ呼ばれてねぇのに分かるんだよ」
「僕はグリフィンドールに決まってる!他の寮は僕には相応しくないね」
すっげぇ自信家、変な奴まだ出会って数時間なのに何か惹かれるものをジェームズから感じていたのは事実。
これは恥ずかしいから墓まで持って行くこととする。
そんな時俺は名前を呼ばれた。
「行ってこいよ相棒」
「あぁ」
「グリフィンドールの席でまた会おう」
胸は早鐘を打ち、一歩進むだけで気持ちはいっぱいいっぱいだ。
壇上に上がった時、緑のスリザリンの方がざわついた気がした。
ブラック家はそれ程に有名だった。
俺はその日組み分け帽子が達者に喋るのを知った。
頭に触れるか触れないかというところで寮が告げられる者もいるというのに、俺の組み分けは長かった。
いや俺自身長く感じたのかもしれない。何時間もそこに座っているような感覚にさえ陥る、が俺はずっと願っていた。
その願いが通じたのか組み分け帽子はぶつぶつ言いながらも高らかにグリフィンドールと叫んだ。
そこからはあまり覚えていない。
ただその後意気揚々と現れたジェームズ、リーマス、ピーターと楽しく食事を交わしたことだけは覚えている。
「ラピスラズリの女の子は見付かったかい?」
その言葉にがっついていたシェパーズパイが見事に喉に詰まった。
ピーターが慌てて差し出したかぼちゃジュースで事なきを得た。
「その調子だと忘れていたね」
「……」
「僕はちゃんと見ていたけどね」
あの子の名前はリリーエヴァンズだってさ、とにこにこしながら言うジェームズに適当に相槌を打った。
「急がなくてもきっと会えるよ」
リーマスがそう言いながら、かぼちゃジュースを注いでくれた。
「そうそう、それでこその運命、なんだろう」
「うるせ!」
ジェームズがニヤリと言うもんだから軽く小突いてやった。
今だけはこの楽しさに身を投じることにした。
09.09.18