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つい先日訪れた時と図書館は何ら変わってはおらず、相変わらず古書特有の匂いがした。
図書館内は暖かくて心地が良かった。
そして俺は以前なまえと来た時を思い出し、マダムに本を返した。そのまま俺は返したというのに前回と同じように、図書館の奥に足を進めた。


「シリウス?」


同じように借りたのだから、同じように図書館に来て返すのは当たり前だが、まさか出会うとは。
少し昨日の今日で気まずく感じた。


「あ、なまえ…」
「…あの、ごめんなさい!」
「え?」
「ちょっと待ってて?」


なまえは俺の顔を見るなり、そう言い目の前から消えた。何かあったのだろかと思ったが、待っててと言われた以上離れる訳にはいかず俺はそのままぽつりと残され、棚の本に手を伸ばした。
本当にここは鉱石や鉱物専門のようで、その手の本で埋め尽くされていた。そのほとんどが分厚い本で、その1つを手にとった。ずしりと右手に重さを感じた。その手に取った本は今までとは違って、鉱石や鉱物を加工したものが載っていた。そのほとんどが宝石類に加工されていて一層輝いていた。


「し、シリウス」
「あ、あぁ…大丈夫か?」


息を切らすなまえ。急いで来たのが見て取れた。


「どうしたんだ?そんなに急いで」
「あの…シリウスに、渡したいものが」


差し出された小さな包みを受け取るとどこか香ばしい匂いがした。


「昨日のお礼に作ったの」
「え?」
「あんなことに付き合わせてしまったから…」
「別に気にしなくていいのに…その、ありがとな」


俺はなまえから貰った小さな包みと、先程手に取った本を持って図書館を出た。
なまえを真正面から見ることに何故か恥ずかしさを感じて視線が絡まることはなかった。

自室に設置されている姿見に映った俺は、自分でも分かるぐらいに顔が赤くてそのままベッドに突っ伏した。

どれぐらいしたのか火照りを感じなくなった時、ベッドに一緒に投げ出されている包みと本が目に入った。
包みはきっとクッキーだろう。そんな焼き菓子の香ばしい匂いがする。それはベッド脇のサイドボードに移動させて、また本をぱらぱらと捲った。いつも止まる同じようなページ。青がとても綺麗で目を奪われる。


「ラピスラズリ、か」


そこには色々と詳しく書かれていた。
ラピスラズリとは青い石、という意味であること。その青色は「空」混入している金は「星」を表していて、天空をイメージしていてそこには神が宿るとして聖なる石とあがめられているということ。成功を導き幸運を招く石であること。


「幸福の石、か」


幸福を是非とも与えて欲しいものだ、自嘲気味にポツリと呟いて俺はベッドに預けたままの体を起こした。
その時、サイドボードの包みの他にもう1冊本を見付けて俺は手を伸ばした。


「あ」


クリスマスはもうあと数日だということに、プレゼントをまだ用意出来ていないことに気付く。そしてそのふくろう通販のカタログを開いた。分厚いカタログを俺はひたすら捲った。ジェームズには、リーマスには、ピーターには、なまえには、みんなの喜ぶ反応を考えるととても楽しくて柄にもなくウキウキした。
その晩俺はふくろう通販で色々な注文をした。今までの、家族であるブラック家やその他の貴族と過ごすクリスマスではないクリスマスに胸が躍った。



09.09.23
(09.10.18up)
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