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「それでキミはなまえをロクにお守り出来なかったのかい?」
「うるせーな!それは俺が一番分かってるよ…」


情けない。何も出来なかった自分に。俺は自己嫌悪に陥っていた。
正直あの後俺となまえは1言も喋らずにグリフィンドールの談話室まで帰って来てそのまま2、3言葉を交わして別れた。
それから俺は何をするでもなく自室のベッドで仰向けになっていた。ベッドの天蓋に貼られたプロクィディッチチームのポスターの中を選手が忙しなく飛び回っている。
そしてバタバタ帰って来たジェームズ達が、伏せっている俺を気遣いもせずに質問を浴びせてくる。


「言ってやれば良かったんだ。なまえは俺のだ!ってさ」
「バカ、んなの言える訳ねーだろ」
「そうかい?でもキミはなまえが好きなんだろ?」
「は?な、何言ってんだよ!」

「違うの?」


そう割り込んで来たのはリーマス。こういう時のリーマスは苦手だ。核心を遠慮なくついて来る。それも的確に。
違うのか、どうか聞かれると困る。


「僕はシリウス、キミがなまえに惹かれているってずっと前から気付いていたよ」
「な!」
「違うの?だったら何故邪魔をしたの?キミには関係ないじゃないか」


関係ない、それはあの時相手に言われた言葉。フラッシュバックする。


「俺は…」
「ジェームズ、ピーター、シリウスを1人にしてあげないかい?」


そうすれば気付くんじゃない?リーマスはそう言い残して、ジェームズとピーターを引き連れて部屋を出た。出たといっても談話室にいるんだろうけど。
気付くって何にだよ、俺が聞きたい。教えて欲しい。なあ教えてくれないか。


「はぁ…」


俺がなまえを好き?これが恋?誰かを愛しいと思う気持ち?
確かに最初何かを感じたのは認める。何か不思議な、というか何か惹きつける魅力があったような。だからダイアゴン横丁で声を掛けた。話してみたら不思議なヤツっていうのは益々濃くなって、鉱石の話をする時のなまえはキラキラしてて本当にきれいで。可愛らしくて。
この気持ちは好き?
誰かを好きになったこと何て今の今までなかった。何かを愛しいと思うこともなかった。それはブラック家という特殊な環境がそうしたといっても過言ではない。
でももし俺がなまえを好きだとしても、なまえはどうだ?同じとは限らないし。好きだとしたら次はどうすればいい?マニュアルがあればすぐにそれを手に取るのに、そんな都合のいいものは存在などしない。


「はぁ…」


零れるのは溜め息ばかりで、俺はそのまま眠りについていた。

その後、ジェームズの声で目が覚めると窓の外は明るくなっていた。
夕食も食べずにずっと眠っていたことに驚いた。でも不思議と頭の中は何故かすっきりしていて、久しぶりに何か夢を見たような気がした。
そして軽くシャワーを浴びて、身支度をして大広間に向かった。
なまえの姿はグリフィンドールの席にはなかった。俺自身来るのは遅かったからきっともう朝食を済ました後なのだろう。


「遅い登場だね」
「ジェームズとピーターは?」
「もう先に行ったよ」
「そうか」
「ついでに言うとなまえもね」


リーマスも朝食が終わったのかナプキンで口元を拭いて立ち上がった。
俺は何時にも増してハイスピードで朝食を済ませた。何度かスコーンが喉に詰まってその度にかぼちゃジュースに手を伸ばした。


「ギリギリだよシリウス」
「ジェームズもっと早く起こしてくれよ」
「何か幸せそうな夢を見てたみたいだからさ」
「そうか?」
「なまえ〜ってさ言いながら笑ってたから」


ピーターはジェームズの発言に吹き出した。俺は盛大にジェームズを小突く。呪文学の教室に来てみると、みな揃っていてきちんと席はキープされていた。


「それでどうだった?」


リーマスは前で説明するフリットウィックに視線を移したまま、そう投げかけた。


「…さあ、よく分からねぇ」
「だろうね」
「あ?」
「シリウスは変なとこで不器用だからね」


リーマスは相変わらず遠慮がない。


「でもさ、思ったままでいいんじゃない?」
「思ったまま?」
「恥とか世間体とかはさ、恋愛には通用しないからね」


悟ったようなリーマスの発言にどきっとした。今まで色んな女の子とは、ブラック家主催のパーティで出会っていた。というか両親が無理矢理に合わせるのだ。将来はブラック家に見合った名家の才女とどうとかこうとか。これはもう両親の口癖で、嫌で仕方なかった。シリウス、あなたは我がブラック家の長男なのだから、母親のあの嫌な声が聞こえる。
そんな時タイミングよくチャイムが鳴った。


「シリウス、大丈夫?」
「あ、あぁ」
「あんまり深く考えないでね」


リーマスは教室を出る時、俺にだけ聞こえるような声音で言った。


「シリウスよ」
「なんだよ」


次の教室に向かう途中ジェームズはゆっくりと話し出した。正直廊下が寒くて、それどころではない。


「恋愛ってさ、難しいよね」
「ジェームズに分かるのかよ」
「当たり前じゃん!絶賛恋愛中だよ」
「でも発展しないのな」
「それは言うな相棒」


何時もと変わらない日常に少し気が楽になった。ジェームズじゃないが本当に難しい、そう実感した。
俺は授業が終了すると同時に図書館に向かった。借りた鉱石の本を持って。



09.09.23
(09.10.02up)
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