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我ながら夜遅くまで頑張るな、と小さな笑いが零れた夜。
ついこの間の夜まで祝勝会で騒いでいた談話室とは思えないぐらいに静まり返っていた。
さっきまで同じく談話室にいた他の生徒は自室に引き上げたようだった。
少し伸びをしてレポートの最後の仕上げに取り掛かる。もう羊皮紙はほとんどが文字で埋まっていた。

その時太ったレディの声がして肖像画の扉が開いた気がした。
まさかマクゴナガルか?いや例えマクゴナガルでもまだ消灯前だし、この完成度が高いレポートを提出すれば目を瞑ってもらえるだろう。 だが入ってきたのはマクゴナガルでもなければ教員でもない、面識のないグリフィンドール生。上級生だろう。
俺はその生徒が部屋に戻っていくのをちらりと見てから、俺はまた羊皮紙に戻った。


「よしっ!」


出来上がったと同時に時計を見ると消灯を少し回っていた。
そろそろ戻るか、と暖炉の火を消そうと立ち上がった時また太ったレディの声がした。少し怒っているようなレディの声。
俺はドキリとして突っ立ったままだった。

「シリ、ウス?」
「なまえ」


驚いた。まさかこんな時間になまえが外から談話室に戻って来るだなんて。
それに何だか悲しそうに眉根が下がっていた。


「何かあったのか?」
「う、ん…」


俺はなまえを暖かい暖炉の前のソファに座るように促した。


「ルーシーと一緒に夕食の後図書館に居たの」
「あぁ」
「そしたら男の子に呼び出されて」
「…うん」


なまえの1言1言にドキドキした。それはもちろん悪い意味で。


「その人グリフィンドールの五年生で、先輩で…」
「な、泣くなよ」
「ごめん」


段々涙混じりの声にまたドキドキした。こういう時どうすればいいかなんてこの時の俺は全く分からなかったのだ。
俺はなまえにハンカチを差し出した。ポケットに入っていてよかった。


「それで?」
「うん、その人…私のことが好きだって、一緒にダンスパーティーに行かないかって」


とうとう泣き出してしまったなまえにただ俺は呆然とした。
ハンカチにどんどん涙が染み込んでゆく。


「なまえ、それでそいつは?」
「返事を聞かせて欲しいって、でも私その人のこと名前も知らなくて、どうしたらいいか分からなくて」
「そ、そっか」


俺は精一杯の勇気を振り絞って、左手で隣に座るなまえの右手を握った。


「シリウス、ありがとう」
「いや、俺は何も…」
「私どうしたらいいかな?」


未だになまえの双眸からは涙がぽろぽろ零れ落ちる。
左手に少し力を込めた。



09.09.21
(09.09.27up)
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