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ニートで、童貞でやる気も無くって、兄弟の誰かが言ってた。俺達は暗黒大魔界クソ闇地獄カーストの最底辺だって。燃えないゴミで、クズでクソで、そんな俺のささやかな幸せが毎朝と毎夕の猫との戯れ。猫缶持って路地裏に現れば、わらわらと自然と集まる猫達。猫はイイ、猫が友達だと楽だ。本能に忠実で実に気まぐれで利己的。

今日も今日とて変わらぬ毎日。唯一違うのはいつもの場所から少し足を伸ばしてみたってことぐらい。普段よく行く路地裏では珍しく猫が疎らで、何度か来たことがある別の場所にも顔を出してみた。駅から少し離れており、大通りを一本入った路地裏では猫の集会が開かれていた。見知った猫も居て、なんだこっちに来てたのかなんて思ったり。
次第に日も暮れてきて、持ってきた猫缶の中身も平らげられて無くなってしまった。足りないとモノ欲しげに無く猫に、もう無いんだと呟いて頭をひと撫でした。そろそろ帰らないとなァ今日の晩飯何かな?ハムカツ?なんて自分のことをぼんやりと考え始め、立ち上がり膝についた砂を払った。最初は猫缶が入っていたスーパーの袋には、今や中身が空になった猫缶がいくつか入っていた。ガサガサと袋が鳴る。また来るから、と路地裏から出ようものならと俺の足元にまとわりつく猫。もう無いって、と猫にもう一度言葉を投げかけてからそこに俺以外の別の人間がいることに気付いた。
如何にも仕事してます、なスーツに身を包んだ歳の近そうな女はじっとこちらを見ていた。今の猫のとのやり取りを見られていたかと思うと、少しバツが悪くていつもより5割増しで顔を見れそうになかった。猫背に拍車がかかって、俯きがちに問う。


「………何?」


自分が思っているよりも低い声が出て、内心驚いた。その声の所為もあってか、目の前の女はあたふたと何でもないと、謝った。それで立ち去るのかと思ったが、女は私も猫が好きだと俺に臆せず言った。
何なの?その言葉だけが俺の脳内を支配する。そんな俺の意に介さず猫達は俺の右手にぶら下がる空の猫缶が入ったスーパーの袋にじゃれ出した。だからもう無いんだって、と言葉に出たがもちろん猫にその意味を汲んでくれといっても難しいようで猫の所作は止まらない。
目の前の女はそこで自分が持つ袋にガサっと手を入れ、目当てのものを手にするとそれを差し出した。


「…え?何?」
「まだ、お腹空かせてるみたいですし…。良かったら、これ…」


ぐっと、伸ばされた腕に反射的に手を出せばぽんと新しい猫缶を渡される。なんでこの人は初対面の俺に話しかけたり、新品の猫缶を渡したりするんだろう。二十数年生きているがその答えは短時間では到底出るものではなかった。何も返事を出来ずにいるとその女は、ごめんなさい、さようならと矢継ぎ早に言葉を並べて居なくなった。どちらかと言えば謝るのは俺の方ではないのか、と思いながら遠慮なく猫缶を開けた。
パキャっと小気味良い音が路地裏に響き、待ってましたと言わんばかりに猫が一斉に鳴いた。