▼7話 トド松と5人の悪魔



「あっ!名前ちゃん!!」
「来たよ?トド松がおいでっていうから」
「わぁーありがとー!何にする?何でもいいよ、ご馳走するし!」


トド松がバイトを始めた。まだ始めて数週間らしいけれど、トド松はこのスタバァコォヒィーに馴染んでいるようだった。トド松のハートが飛びまくっている会話を受け流しメニューを見る。


「この季節限定のやつ美味しそうだね」
「さくらブロッサムフラペチーノだね、いいよー!エクストラホイップにしてあげる」


ご馳走する、とは言うものの流石にこの間までニートだったトド松に頼るのも悪い気がして自分の財布からお金を出す。ほんとにいいのにー、とトド松は言うけれど、私が強めに言うと分かったよとトド松はレジを打った。


「ところで、うちの兄さん達には言ってないよね?」
「え?うん、トド松が内緒にしてっていうから言ってないけど」
「それならいいんだー。はい、さくらブロッサムフラペチーノ!」


トド松からピンクの可愛らしいフラペチーノを受け取ってドア付近の席に座った。ピークを過ぎた店内は比較的空いていた。そんな時、ガーッと自動ドアが開いて並々ならぬ気配を感じスマホに落としていた視線をふと上げた。
しかし私はすぐに視線を上げたことを後悔した。レジ対応しているトド松の方を見ると、彼も接客の最中ではあるがその思わぬ来客にショックを隠せない様子だった。
そう、トド松の実兄であり、私の幼なじみ達が妙ちくりんな格好をして現れたのだ。トド松御愁傷様と、胸の中で唱えた。


「あんれまぁ、こりゃハイカラな店だっぺー」


そのおそ松の声に店内に居たすべての人間がその来訪者達を見た。


「って、あれ?名前じゃね?」


知り合いと思わたくない私は必死で俯いていた。そこへレジ接客を終えたトド松はつかつかと歩み寄ってきて、おそ松の腕を掴み店外へ姿を消した。
なんとかして説得して帰ってもらうのかな?という思いも束の間、他のアルバイト店員の女の子達と共に六つ子は店内に戻ってきた。女の子達にちやほやされてデレデレするあいつらに、頭痛がした。


「ご注文承ります。早く頼み、早く飲み、早くお帰り下さい。他のお客様のご迷惑になりますので」


とトド松の珍しく低めの声がした。


「つーか、名前は良くてなんで俺らはダメなわけ?」
「名前ちゃんは別!」


依怙贔屓だよね、それは。なあ名前??とおそ松に声を掛けられて仕方なく席を立つ。まだフラペチーノ半分残ってるのに。知り合いと思われたくなかったのに!


「あんたらがそんなんだからトド松は嫌だったんじゃないの?」


うんうん、と頷くトド松を他所に十四松が口を開いた。


「えーっとねぇ、牛丼ある?」
「ねーよ!」


たこ焼き!フランクフルト!ソフトクリーム!と皆思い思いに口にする。
カラ松に至っては最後まで注文を口に出来ずに倒れた。
そしてトイレの前に雑に設置されたテーブルに松野家御一行様は案内された。何故かそこに座る私。


「あんまー!食べてみ兄さん」
「あんま!こんな洋菓子初めてやで」
「洋菓子ちゃうがな、今日日スウィーツやがな」


という十四松と一松のやり取りを聞きながら、名前ちゃんもどぞー、と十四松から差し出されたパフェを口に運び同じくあんま!と一言。フラペチーノからのパフェの甘さに耐えられなくて、ちょっと水を貰ってくるねと席を立つ。
ちょうど私と入れ替わりに、トド松の同僚である女の子たちとすれ違う。何やってるんですか?!こんなところで、と言う彼女に振り返ると同時に現れたトド松の手から噴射される煙。


「え、トド松、それって…」
「どうしたのー?トイレにゴキブリでも出たー??!」


地獄絵図を遠目に見る。その後彼女達から発せられるトド松の嘘に笑いをこらえた。慌てるトド松がおかしくて。
ただ、他の兄達はそれが気に食わなかったようで好き放題し始めた。


「私、先かーえろっと!じゃあトド松頑張ってね!」


ポンっと、トド松の肩を叩いて退店した。



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トッティふぁいと!