「ねぇまだぁー?」 朝食後、相も変わらずチビ達の相手を任された私は庭で汗水を垂らしていた。縁側には準備万端でこちらを傍観するチビ達が、早く早くと急かす。 「うっるさいなぁ!今やってるじゃない」 シュッシュッとビニールプールと繋がったエアポンプを私はずっと踏み続けてる。誰かが言い出した、庭にプール出してあげたら?発言の為今私はこうしている。多分発言者は直美ちゃんではなかろうか…うん、ありえる。 「よっよっ、よし!いいんでない?」 ぐっと押さえると空気が詰まって弾力あるそれは私の手を押し返した。 「真悟!祐平!蛇口捻ってきて。いいって言ったら止めるんだよ?」 2人は現金にも私に敬礼して見せてから、おばあちゃんの朝顔の方へ走って行った。あそこには散水用に水道の蛇口がある。長い長いホースの先はそこに繋がっている。しばらくするとチョロチョロ流れていた水も勢いを増し、みるみるうちにビニールプールには水が並々と溜まった。 「もう止めていいからー!2人とも早くきなぁ」 またチョロチョロと流れ始めたホース片手に立ち上がり汗を拭った。改めてビニールプールの全景を眺めると結構大きい。自分お疲れ様、としみじみ浸ってるとまた2人はバタバタ走って来た。 「よしよし良くやった2人共。ではまず準備体操をしてだな…ってこらぁ!!」 お約束とでも言おうか2人は勢い良く飛び込んだ。お尻から。もちろん並々に溜まった水は外に弾け飛んで側にいた私に豪快に掛かった。2人は一瞬、あ…まずいといった顔をしたが次の瞬間にはすぐにプールに夢中になっていた。 「あらら、なまえちゃんずぶ濡れね…」 「奈々さん…に加奈!」 ピンクのふりふりの水着に着替えた加奈を抱いた奈々さんは苦笑気味に言った。 「ほんとですよー。真悟や祐平には手を焼くっていうか」 今度は水着に着替えた真緒が走ってきて、これまた勢い良くプールに飛び込んだ。危ないのに笑ってる3人がすごい。奈々さんはもう1つ庭にあった円形の浅いビニールプールの側に加奈を下ろして言った。 「なまえちゃんは水着にならないの?」 「えっ!いやアウトでしょ絶対!」 「そんなことない、すごくスタイルいいんだし」 また濡れてしまうわよ?みんななら見てるから、と奈々さんの嬉しいお言葉に甘えていそいそと部屋に戻った。 水着なら確か去年、高校の時みんなで海に行った時買ったのがあるはず!タンスからそれを探し出して着てみると意外にもぴったりで、去年から何ら成長していないのかと少し寂しくもなった。 「奈々さーん。お待たせー」 「あ、なまえちゃん。ビキニ若いなぁ」 「いやいや奈々さんもまだまだピチピチだからね」 2人して笑った後、奈々さんはまた女性陣のところへ戻って行った。私はというと、白いビキニにパーカーという出で立ちで本格的に子守を再開した。 「さて、と。加奈気持ちいい?」 プールに浮かべたキャラクターのおもちゃと楽しそうに戯れる加奈に和んで、後ろの賑やかなプールには背を向けた。しかしそんなのも束の間ですぐに3人組から水鉄砲の餌食にされる。子供怖い。 「やっぱり幼稚園の先生の方が向いてたのかも知れない…。ね、加奈?」 「何やってんの?!」 不思議そうにこちらを見つめる加奈に変わって、また新たな人物が縁側からこちらを見下ろしてる。アイスクリームをくわえながら悠々と。 「何ってプールだよ?佳主馬も入る?入りなよー」 「やだよ。なんか怪我しそう」 「ちょ、そんな不安を煽るようなこと言わないでよ!」 後ろのプールを指差して言うもんだから、不安が胸を過ぎった。 「っていうか何でなまえ姉ぇまで水着?」 「いや、濡らされるからね」 今もなお、私の背中は水鉄砲の標的にされている。これが実弾だったら今頃私は穴ぼこだらけだ、と思わず失笑する。 「ほどほどにしなよ…?」 「うん…」 「あっ携帯光ってる」 「メールかな。見てみて」 「え…」 縁側に放置されたままの私の携帯は確かに光っていた。佳主馬はおずおずと携帯に手を伸ばすと、パカッと開いて中を確認した。 「誰?」 「…夏希姉ぇ」 「おぉ夏希!何だって?」 「今新幹線に乗ってそっちに向かってるよ、だって」 「楽しみにしてるって返しておいて」 佳主馬は言われた通りにカチカチとボタンを押して文章を作っていった。 「絵文字は?」 「テキトー」 「了解」 そしてパタンと閉じられてまた携帯は縁側に置かれた。 「今からだと3時過ぎぐらいじゃない?」 「あー…かもね。多分まだプールだわ」 「はは」 佳主馬は頑張ってね、と薄情にも言い残すと居なくなってしまった。きっとまた納戸だ。納戸よか絶対涼しいのに…プール。 そしてまたチビ達の相手に勤しんだお昼前。 10.9.27 |