「佳主馬もこっち来て子守担当してよ」 「やだ」 納戸に引きこもる佳主馬を引き留める術が思いつかずにただただ見送った。 完全に眠ってしまった加奈に、遊び疲れて眠ってしまった真緒に真悟に祐平。4人並んで枕を並べて1枚のブランケットを掛けた。そして私はそんな4人の側にある座卓の上にパソコンを置いた。レポートを書き上げないといけない。夏休みの宿題だからといって、夏休みの友や絵日記、朝顔の観察記録といった簡単なものではないのだから厄介だ。一筋縄ではいかない。 「ありがとうございます」 カランと氷の入った麦茶を奈々さんが持って来てくれて、喉が乾いていたことに気付いた。ゆっくりと数回まばたきする。パソコンはやっぱり慣れない。目がしぱしぱする。ぐいっと煽った麦茶のお代わりをもらいに台所に向かうと一段落したようで女性陣の井戸端会議が開かれていた。 「あっなまえ、聖美に加奈ちゃん自分の子だって言ったんだってー?」 「聖美さんのお喋り」 「あー私も早く孫が見たいわ」 「ちょっと私を見ないでよ。翔太に早く頑張ってもらおうよ」 ドッと沸いた台所の女性陣を無視して冷蔵庫を開けた。後ろでは、翔太は嫁を貰えなさそうだとかできちゃった婚しちゃいそうだとか在ること無いこと囁かれるから怖い。ぐいっと半分ぐらい注いだ麦茶をまたも煽って、ふっと納戸に居るだろう佳主馬を思い出した。納戸は暑いし暗いし埃っぽい、そんな納戸に籠もる佳主馬の考えなんて知ったことではないが、ちゃんと新しいグラスに氷を入れて麦茶を注ぐ私の優しいこと。 女性陣は次は夏希が連れてくるらしい彼氏の話題に移っていた。 「はぁ、夏希に先越されるなんて…」 とぼとぼと2つのグラスを持って納戸を目指す。薄暗い納戸に人工的な光、佳主馬しかいない。 ひょいと覗くとOMCに勤しむ後ろ姿。画面から察するに勝負も終盤に差し掛かっているようで、そっと近付き次の瞬間のWinの文字が表れて佳主馬がふっと息を吐いたタイミングにグラスを頬に押し当てた。 「っうわぁああ!」 「落ち着きなよ」 「なまえ姉ぇが悪いんじゃん」 「はい麦茶」 「もっと普通に渡してよね」 また佳主馬はパソコンに向き直った。汗をかいたグラスを頬に当てた瞬間の佳主馬の驚愕の声が頭に残っててまた思い出し笑い。 「納戸綺麗になったでしょ。片付けたの私なんだ」 「ふーん、まぁありがと」 「言い方がダメ、もっと可愛らしく」 「何それ」 ふんって佳主馬は鼻で笑うと、タンッとエンターキーを叩いた。そしてくるんとこちらに向き直った。 「ねぇ、なまえ姉ねぇって彼氏いないの?」 「…内緒」 「なんで」 「花札で勝ったら教えてあげようか」 「OMCで勝負しようよ」 「キングとなんて無理だよ無理」 私はパンッと足を払って立ち上がった。 「佳主馬もマセガキになっちゃったわけか」 「別にそんなんじゃない」 「レポートほったらかしだから戻るね。佳主馬も気が向いたらこっち来な」 ひらひらと手を振って納戸を出た。振り向いた佳主馬の目があまりにも真剣で少したじろいでしまったのは事実。 10.9.20 |