服よし、髪よし、化粧よし!身支度を整えて朝ご飯にありつこうと大広間の前を通った時、バタバタと慌ただしい音が聞こえた。 「こらぁ真悟!祐平!何やってんの!小磯くんも」 「あっあっ違うんですなまえさん。こら、ちょ」 バタバタと座卓の周りを走る三人に渇を入れた。 小磯くんがいたことには驚きだ。 「小磯くん何やってるの?ニュース番組?」 小磯くんは驚きの速さでテレビの前に立つと画面をその細い体で塞いだ。私はその体の隙間に映る画面を盗み見ようと首をもたげる。途端小磯くんはテレビのコンセントを素早く抜き去った。 「小磯くん?」 「なまえさんも来て下さいっ!」 ぐいと手首を捕まえて小磯くんと廊下を走る。なんだか今日は朝っぱらからよく走るなぁとふと思った。すると廊下の端でわたわたと携帯をいじり始める小磯くん。 「小磯くん?何やってるの?OZ?」 「あれっ?!あれっ!?」 「ログイン出来ないね?」 「なんで??!」 小磯くんのおたおたわたわたは止まらない。 「あ、佳主馬のパソコン借りたら?こっち」 「は、はい」 今度は私が小磯くんの手首を掴んで、納戸へと案内する。納戸に着いた瞬間小磯くんは佳主馬の前に駆け寄って、そして崩れ落ちた。 「あのさ、パソコン借りていい?」 「言い方がダメ。もっと取引先に言うみたいにやって」 あれ?それどこかで聞いたやつじゃない、と私が口を挟む間もなく小磯くんは佳主馬のそれに従った。 「も…申し訳ありませんがパソコンを貸して下さい」 深々と下げられた小磯くんの頭に佳主馬は満足したのか、体を左にずらしパソコンを小磯くんに渡した。私はすぐに佳主馬の傍に腰を下ろし佳主馬の頭を小突いた。 「こら、佳主馬。仮にも小磯くんは年上なんだからね」 「っていうか何でなまえ姉ぇがここにいるの」 「…何でだろう?成り行き?」 それ以外にしっくりくる言葉が見当たらない。今も隣では小磯くんがカタカタとパソコンをいじっている。相変わらずわたわたしている小磯くんとさっきの携帯と同じように聞こえるエラー音。 「何でぇ?」 「何焦ってんの」 「アカウントを乗っ取られたみたいなんだ」 「なんだ、なりすましか」 焦る小磯くんとは対象的に、佳主馬は一息つこうと言わんばかりに悠々と麦茶を飲んでいる。未だに事態がさっぱり理解出来ていない私は傍観者となるのみ。 「どうしよう…」 「サポートセンターに連絡」 「それだ!」 今度は携帯をカチカチといじって電話を掛ける小磯くん。だけどうまくいかないようで、小磯くんの顔が徐々に青くなっていく。 「か、かからないっ!かからないよ!」 「落ち着きなよ」 ぼうっと2人のやり取りを見ていたら、廊下から足音が聞こえた。ちらりと見ると足音の主は聖美さんで、固定電話の子機を手にしていた。 「小磯くん?」 「おおぉ…!」 聖美さんの声にガタガタとびくつく小磯くんに佳主馬が落ち着けと諭す。 どうやら小磯くん宛に東京の友達が掛けて来たらしい。 「ねぇ佳主馬何が起こってるの?」 「あとで話す」 「何よぅ」 それ僕です、僕がやりました、と自白紛いな小磯くんの言葉に再び視線を小磯くんに戻る。佳主馬はそのやり取りの意味がわかっているのか、途中すげぇと感嘆の声をあげていた。再び小磯くんがパソコンをいじるとそこにはぶさかわいい黄色いリスが現れた。このアバターでOZにログインしますか?とモニタに書かれているのを見る 限り、この黄色いリスは小磯くんらしい。モニタの中で黄色いリスが動く。そして黄色いリスが吹っ飛ぶ。OMCのようなバトルが展開される。小磯くんの黄色いリスは不慣れなのかやられっぱなしだ。そんな小磯くんを見るに見かねたのか佳主馬が割って入る。 「ディフェンス!何やってんのちょっと変わって!」 そして割って入った佳主馬は目も追い付かないぐらい素早くキーボードを叩く。そうすることによってキングカズマが動くのだ。本当に昔からこういうことだけは得意なんだから。OZには主にショッピングやコミュニケーションツールでしか用のない私からしたら、佳主馬のそれは本当にすごかった。 「捕まえた!」 「雑魚だよこんなの」 キングカズマが相手のアバターをぎゅっと拘束した。これで一安心と思ったと同時に納戸に真悟と祐平がやってきた。2人はもう朝ご飯を食べたのかさっき以上に元気がいっぱいだった。 「あっいた!愉快犯発見しました!」 「よーし、逮捕だ!」 2人見事にハモって逮捕だと小磯くんに突進する。小磯くんはもみくちゃにされていた。 「こら真悟、祐平。こんな狭いところで暴れない!」 私の言葉も虚しく、乱入した2人に気を取られてキングカズマの手も緩む。逃げ出したアバターが次から次へと他のアバターに襲いかかる。 「な、に?何なのこれ」 「形が」 「変わった」 私の声に真悟や祐平が続いた。キングカズマが押されてる様を見たのは初めてだ。私や小磯くんの手からスルリと抜け出した真悟や祐平が邪魔した所為かもしれないが。私は強制退去となった2人を連れて廊下を出た。納戸の扉は中から小磯くんが押さえている。 「ほらほら2人共行くよ?お腹すいたなぁー」 「もう食べたもんねー!」 「じゃあまたプールでもするかぁ」 「えー」 「じゃあDSしよう。うん、そうしよう」 強引にチビ達を誘導して私は遅めの朝ご飯に向かった。 11.4.10 一体何が起きてるの? |