「おめでとうレギュラス」
彼女は談話室に入って来るなり綺麗な笑みを浮かべて僕に言った。
「シーカーに抜擢されるなんてすごいじゃない」
「ありがとう」
「なんかレギュラスがどんどん有名になってくからさ、なんか寂しいよ」
冗談混じりに彼女は言った。
昨日僕はスリザリン寮の新しいシーカーに選ばれた。写真もみんなで撮った。シーカーのポジションで写ることはとても誇らしく感じた。何故か、レギュラス・ブラックという人物が認められたような気さえした。大袈裟だけども。
「はい、お祝い」
「これは?」
「この間のホグズミードで買っておいたの」
彼女は手際良くバタービールの栓を抜き、2つのタンブラーに注いだ。軽く礼を言いタンブラーを受け取る。そして天鵞絨のソファに腰掛けた。
「大出世だね!」
「まあね」
「レギュラス昔から飛行術上手だったもんね」
一生懸命よく練習してたもんね、私知ってたよ。と1人での練習を見られていたという事実に頬が熱くなった。
「何見てるんだよ」
「だってレギュラス探してたらいつも競技場の近くで練習してるんだもん」
「声かけろよ」
「邪魔したくなかったの」
悲しそうな瞳がちらりと見えて、胸がきゅっとなった。そして隣に座っている彼女の頭がこつんと僕の右肩下辺りに触れた。胸がきゅうきゅういってる。
「あっ、の、なまえそろそろ大広間に…」
「ねレギュラス、レギュラスにとってクィディッチって何?」
唐突で、少し困った。
そしてこれまた唐突にぎゅっと握られた僕の左手。心拍数が忙しなく上がってる気がする。
「僕、にとってのクィディッチは…大事な居場所、かな」
「じゃあ…私は?」
「えっ!」
それはつまり、先程の質問の僕にとってのクィディッチの続きで、つまり、僕にとってのなまえとは何か?ということか?
「ごめん!急にびっくりしたよね!忘れて」
とにかくシーカー抜擢おめでとう、早口にまくし立てて足早に立ち去ろうとする彼女の手を僕は掴んだ。
「レギュ、ラス?」
「待てよ、言い逃げは認めない」
引き留めたものの、何と返せばいいのか見つからない。今日の今日まで勉強やクィディッチばかりに明け暮れていたからかもしれない。こんな時常に女性を侍らせていたあの兄なら何か気の利いたことの1つや2つぐらい簡単に言えるのかもしれない。
「レギュラス?」
「その…ありがとう」
「うん…」
「今はクィディッチに専念したいんだ」
「応援してる」
少しの沈黙。
気の利いた一言も言えない自分のボキャブラリーの貧相さに嫌気が差した。
「そ、の後でいいなら」
その後でいいなら待ってて欲しい!そういっぱいいっぱいに伝えると、彼女はレギュラスらしいねと笑った。
「レギュラスのそういうとこ好き」
09.09.19
敬語じゃないのは難しい。