僕が死んだらあなたはどうするでしょうね?
いや、僕が死ぬとなったらあなたはどんな行動に出るでしょう?
でも僕というたった1つのいのちで他のいのちをいくつかでも救えるのなら、僕は甘んじてその話を受けるでしょう。それがあの方の失脚に繋がるのであれば。
「なまえさん…」
「どこへ行くの?」
「何故?」
「近頃のレギュラス、様子がおかしいわ」
「それはあの方が言っていたのですか?」
いいえ、違うわ。あの方は何も言っていない。ただ私がそう思ったの。だって今も真っ青な顔をしているんですもの。なまえさんは僕にそう言いながらも目の前を退こうとはしなかった。
「質問に答えてレギュラス、どこへ行くの?」
「それは言えない」
「どうして?恋人である私にも言えないことなの?」
「何も言わずに通してもらえませんか」
暫く見つめ合ったまま、しかしなまえさんは僕の意見が絶対に変わらないと分かったのか軽く溜め息を吐いて、わかったわと呟いた。
「でもちゃんと帰ってくるわよね?」
「はい…」
嘘だ。綺麗に嘘を吐いたがこの人を騙せる自信はない。ホグワーツに居た時からそうだ。現になまえさんは寂しそうな儚げな表情だった。
「なまえさん、行って来ます」
「行ってらっしゃいレギュラス」
そして僕は黒い湖へ向かった。
16の時にあの方にお仕えすることとなった時、それはそれは素晴らしく自慢なことだった。家族も親戚もみな喜び迎え入れてくれたのを覚えている。ただ1人を除いて。まさかその僕がこうして今ここにいるとは、あの時は考えなどしなかった。
ふと、今更ながらもっとなまえさんと、最愛の人との別れを惜しめばよかったと少し後悔した。だが、そんなことをすれば疑惑が持ち上がるのも事実。僕の計画を知った上で行かしたとなればなまえさんに危害が及ぶかもしれない。否、確実に及ぶ。あの方はそういう人物だ。今僕の隣に居るのはブラック家のしもべ妖精であるクリーチャー。これでよかったのだ。
僕はこの計画を遂行しなければならない。
別に英雄になりたい訳じゃないしなれるはずもない。
「クリーチャー、これを持っていろ」
小舟で辿り着いた島でポケットからあの方の持っていたロケットと酷似したものを取り出し、クリーチャーに手渡した。クリーチャーの顔はぐしゃぐしゃでいくつもの涙が零れ地面に吸い込まれた。
「そして水盆が空になった時、クリーチャーはロケットを取り替えるんだ」
「そんなことをすればご主人様は」
「余計な発言は認めない」
ピシャリと言えばクリーチャーはその命令に従った。
「そしてクリーチャーは1人で家に帰るんだ、もちろん母上には決して僕のしたことを言うな、決して」
そして最初のロケットを破壊するんだ。そう言い切った時、ふとなまえさんの顔が頭を過ぎり笑みが零れた。クリーチャーはそれを見、また涙がぼたぼた零れ落ちた。
「さようならなまえさん」
水盆に並々と注がれているそれを僕はゆっくりと飲み干した。
さようなら、走馬灯のように流れるのは皮肉にもホグワーツで過ごしたなまえさんとの輝かしい思い出達。
これでよかったのだ。何も間違ってなどいない。
さようなら。
幸せに出来なくてすみません。
そして僕は湖に溶けた
09.09.18
第10章を読んで。