main | ナノ





かわいいリップノイズが聞こえ、ちらりとそちらを見るとレイブンクロー生とハッフルパフ生がよろしくやって
いた。
まあこんなこと日常茶飯事で校内でもよく目にする。僕は特にどうということはなく何事もなかったようにさっ
と視線を外すと、後ろを歩くなまえさんに目をやった。
彼女もそのシーンを見てしまったようで、耳まで真っ赤にして俯いていた。

折角の休日なので一緒にホグズミードに行きませんか?と勇気を振り絞って誘い出したのはもう2週間も前。
女性と付き合うことなんてなかった僕は、彼女に触れることさえいっぱいいっぱいで今もこうして横に並ぶことなく歩いている。手も今まで繋いだことはない。気持ちが通じていれば、それだけで十分だった。


「あ、あの」
「え?」
「三本の箒で休みませんか?」


疲れたでしょう?そう問いかけるとなまえさんはこくんと頷いた。
時々付き合っているのかさえ時に不安になる。やはり東洋人である彼女は、お国柄か色恋に僕以上に疎いような気がした。
そんな彼女が僕の一世一代の告白を受けてくれた時のことは今でも鮮明に思い出せる。何故受けてくれたのかたまに不思議でたまらない時がある。

カタンと三本の箒で席につきバタービールを二つ注文するとそれはすぐにタンブラーに入って現われた。


「レギュラス」
「はい?」
「ごめんね、気を使わせちゃったね」
「いいえ、気にしないで下さい」


なまえさんは律儀にいただきます、と小さく呟くとタンブラーに口付けた。こくんと喉が鳴って顔を僕に向けた彼女ははにかんだ様子で、美味しいととびきりの笑顔を見せてくれた。


「バタービール初めてだったの」
「え?そうだったんですか?」
「うん、今まで友達とはマダムパディフットの店にしか行かないからなかなか三本の箒に入れなくて…」
「そうだったんですか」
「レギュラスのおかげだね、ありがとう」


その笑顔に不覚にもどきんとして、僕はその気持ちを誤魔化すように自身のタンブラーを飲み干した。
にこにこと嬉しそうな彼女の表情を見ると、ここに連れて来たのは正解だったなと惚けてしまう。
ふと改めて周りを見渡すと、今日ばかりはほとんどの席がホグワーツの生徒で埋め尽くされていた。中には似たような男女のペアも珍しくなく、僕達もそのひとつだと思うと少し胸が高鳴った。
空になったタンブラーを眺めて一息吐く。


「他に行きたいところとかないですか?」
「え?そうだね…ハニーデュークスでお菓子も買ったし、ダービッシュアンドバングズにもゾンコにも行った…あとは大丈夫、かな?」
「そう、ですか」
「なら少し時間もあるし散歩しない?」


今日はいい天気だもの。にこやかに言うなまえさんの意見に首を振るはずがなかった。
三本の箒を出たあとは当て所なくホグズミードを歩いた。途中要所要所でウィンドウショッピングを楽しんだりとそれなりに充実していた。そんな中行き着いた先はホグズミードの外れにある不気味な叫びの屋敷だった。


「少し歩いて疲れたね」


ちょこんと座る彼女に渋々従った。いくら満月の夜ではないからってこんな曰く付きの気味の悪い場所で?と思ったが、彼女が今日一日のことをあまりにも楽しそうに話すもんだからそれに耳を傾けた。


「そう言えばさっきジェニファーとエドモンドを見たわ。あの二人とっても幸せそう」
「そうですね、二人はお似合いのカップルかもしれません」


そういわれて先程見た、同寮の二人を思い出す。


「キャシーもジェイソンと今日デートするって言ってた」
「そうですか」
「幸せだね」
「そうですね」


うまく返すことが出来なくて会話が途切れてしまうのがもどかしい。
何よりも自分達はどうなのか、なまえさんはどう感じているのかと思うと胸がもやもやした。
しかし、こつんと触れたそれによりもやもやはドキドキに変わる。ちらりと盗み見るとそれは白いなまえさんの指で、ドキリとした。


「なまえ…さん?」
「ねぇ、私とレギュラスは他の人にどう映ってるのかな?」
「こ…恋人同士、では?」
「そう、だよね」


くすりと微笑んだ彼女の姿に心拍数は上がった。


「ね、レギュラスは…レギュラスは私のこと好き?」


ぎくっと、なまえさんの顔を見れば真っ赤で、でもその瞳は真剣で、ああ彼女もいっぱいいっぱいなのだと見受けられた。


「勿論です」
「勿論、何?」
「好きです」
「…ありがとう、嬉しい」


赤く染まった頬が可愛らしい。


「…じゃあ、キスして?」
「は?」
「嫌?」
「えっ?あ、いや…じゃないですけど」


心拍数は上昇。色恋に疎いと思っていたのに今日のなまえさんは意外にも押しが強い。友人達に感化されてなのかもしれない。
改まってキスして?、だなんて言われるとは思ってなかった僕はこの時大いに狼狽していた。
キスって何だ?くちびるとくちびるが触れ合うこと?それだけ?それでいいのか?小説のラブロマンスなんてこ
の方読んだことがない。
目の前のなまえさんは真っ赤な顔をしてぎゅっと目を閉じていた。


「…レギュラス?」
「はい」


急かされるようなその言葉に僕はぎゅっとくちびるを押し付けた。ムードなんてものは一切ない。何てったって
ここは叫びの屋敷のそばなのだから。幸い周りに人がいないことには感謝する。

ドキンドキンと五月蝿い心臓を止める術を僕は知らない。



10.5.3
(KISSから始まる)提出

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -