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私の初めてホグワーツで過ごすクリスマスは楽しいなんて気持ちはこれっぽっちもなく、手早く大広間で食事を済ますと私は図書館に向かった。
日本から来た私は、そのほとんどがイギリスの人間の中ではアウェイな存在で、入学前に必死で頑張った英語も話すのはたどたどしくて悲しくなった。聞き取ることもまだ本場ネイティヴなものには適わないが話すのに比べるとまだ幾分かはましだった。入学して早3ヶ月そんな状態じゃ友達はおろかまともに話せる人間なんていない。
そもそもそんな私がスリザリンだなんておかしな話だ。父親譲りなのかもしれないが、私にはもっと他に合う寮があったはずだ。

図書館は、しんと静まり返っていた。私は誰もいないことをいいことに湖が見渡せる窓に位置する椅子に腰掛けると、可愛らしいレターセットとボールペンをカバンから取り出してテーブルに広げた。
忙しくてなかなか出せなかった友達への手紙。色々な気持ちが溢れだす。
久しぶりお元気ですか?から始まり様々な話に派生していく。いつしか手紙というものにのめり込み、色々な気持ちが吐露されていく。


「…日本語?」


急に耳に入った言葉にびくりと体が跳ねる、と同時にひぐっと息を飲んだ。それほどに驚いたのだ。
その時初めて同じテーブルに私以外の人間がいることに気付いた。
「そんなに驚くこと?」


流暢な英語よりも突然だったことに驚いて口をパクパクするばかり。目の前に座っているのはいつも何人かの取り巻きを連れている同級生。確か名前は…


「僕はレギュラスブラック、君は」
「…なまえみょうじ」
「知ってる」


かろうじて聞き取れたブラックの知っているという発言に、返す言葉はなかった。ブラックはちらりと私の日本語が羅列している手紙を見て、ぽつりと何かを呟いた。うまく聞き取れなかった。


「えっと、今何て?」
「日本語は、とても、興味深い、言語だ」


ブラックはゆっくりと切れ切れに言ったが、おかげで言いたいことは伝わった。つまりブラックは日本語に興味があるということ。


「それに、これは?」
「ボールペンのこと?」
「ボールペン?インク壷に浸けなくてもインクが出てくるだなんて、マグルは時に驚いた発想をする」


早くて聞き取れなかったところは曖昧にぎこちなく笑って返した。今までこうやって他の生徒と話す事なんて無かったから新鮮だ。
「あ、の」
「何?」
「夕食は、パーティーはいいの?」
「別に、それに夕食はもう食べた。賑やかなのは苦手なんだ」


目を伏せたブラックの睫毛に暖炉の光が影をつくる。どきんと胸が動いた。ただ彼は私ではなく日本そのものに興味がある、そうだというのに私の胸の高鳴りは止まない。


「あっ雪」
「?」


思わず発した日本語にブラックは疑問符を浮かべ、私の言葉そのままに雪と日本語で復唱した。
既に湖は氷が張られ、森も何もかもが白い雪化粧を施されていた。そして今もまた粉砂糖のような白い雪が降ったきた。ブラックは小さくスノーと呟いたように聞こえた。


「また一段と寒くなる」
「そうだね」


しんしんと降り積もる雪を2人で見やる。
しばらく見ていたが、またブラックは突然口を開いた。


「僕は…あなたの祖国に興味がある」
「はい」
「また僕に教えてくれない?」
「え、あの…はい」


イエスの私の言葉にブラックがふわりと微笑んだ。また胸が跳ねた。
「それじゃあミスミョージ、ハッピークリスマス」
「ハッピークリスマス、ミスターブラック」


ブラックは言い残すと体を翻していなくなった。
降り積もる雪のように私の心にも不思議な何かが残ったまま。



09.12.13
はっぴーはっぴークリスマス!2009!様へ
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