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人は死ぬ間際走馬灯のように今までのことを思い出すと言うが、僕の走馬灯には貴女ばかり。

あなたはまだ一人ですか?



「レギュラス!」


ふわりと笑ったその笑顔はとても印象的で、恋に落ちる音はしなかったがその実感はあった。
その時は毎日が幸せで、それは束の間だったけど僕にとっては最上だった。
年を重ねるうちに、その幸せを手放さなくてはならないことを認識しあの日別れを告げた。


「#first#さん」
「ん?」
「今日でお別れです」


あまりにもさらりと言ったからだろう。#first#さんのきょとんとした顔、そして涙で濡れそぼった顔、今まで見たことがなかったような様々な表情を見れたことを他人事のように感じていた。
闇の世界に足を踏み入れることが決まっている人生、僕が産まれた時からこうなることは決まっていた。避ける術がないことも。


「レギュラス、どうしてなの?」
「……」


その質問に答えられる程大人じゃなくて、僕は何も言わず踵を返した。
それきり、それきり#first#さんには会っていない。

何度も好きだと、何時間も何日も隣に居た人が居なくなるというのは、本当にぽっかりと穴が開いたかのような喪失感で何度も夢に見た。
そして今も、こうして考えることはぐるぐると貴女のことばかり。
好きだと囁いた甘い日に、初めて抱きしめたあの日に、愛しているの言葉に三日かかった日、その全てにさようなら。
僕も本気で貴女を愛していました。願わくばまた来世で巡り合える事を。その時は必ず幸せにしますから。

足元でさわさわと主張する季節遅れのニコチアナが揺れる。
夕方の寂しい時間に薫るその香りに誘われ僕の歩みは再開される。


嗚呼、あなたはまだ一人ですか?



09.12.02
(小さき王に餞を)提出
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